前回の続きです。
実用と科学の両方で期待のかかる陸域観測技術衛星「だいち」の後継機が、当初は、災害ばかりに特化した「災害監視衛星」として計画され、科学研究や産業など多方面のデータ活用が一時は危機に瀕しました。JAXAでこのような計画が立った背景には、地球観測の科学的な側面を理解している人材が少なく、逆に実用面で、国内外の災害に対し衛星のデータを提供する「防災屋」と私が呼んでいる人々の成果が内部で異様に目立っていたということがあります。そのために後継機が災害用の衛星として内部で提案され、衛星の目的を絞ってミッションを明確にするという意図から経営層もこれを承認しました。 で、JAXAとしてそれを国に提案した結果が、前回書いたとおり総スカンでした。新設された内閣府の宇宙開発戦略本部からは「衛星の運用の過半を占める平常時のニーズにも対応した多様な用途でのデータ利用を目的とした衛星として、開発を進めること」。総合科学技術会議や文科省宇宙開発委員会からも「防災目的に限らず広く活用すべき」などなど。つまり、たまにしか起きない災害の監視だけのために衛星を上げることは理にかなっておらず、衛星の目的を災害1つに絞ったJAXAの判断は誤りであるとしたのです。この総スカンの結果、衛星の名前は災害監視衛星(DiMOS)から陸域観測技術衛星2号(ALOS-2)、つまり今の「だいち」と全く同じ名前の2号機ということに落ち着きました。 この騒動にJAXAの大きな問題点が現れている気がします。今回は、上からの圧力によって計画は本来あるべき多目的衛星の姿に戻ったのですが、本当であればJAXAの中で初めからそう判断できるべきところでした。「防災屋」は自分たちの衛星が上がることを期待して災害衛星を推進したのでしょうが、地球観測の現場は衛星が災害専門になることを望んでいませんでした。もっとJAXA全体を見た経営判断がなされるよう、研究者・技術者と経営層の間できちんと意識を共有する必要がありそうです。 EORC | 地球が見える-港町神戸と震災からの復興より ちなみに国からの指摘でも私はまだ不十分だと思っています。指摘は後継機を国土管理や産業に大いに活用せよというものでしたが、科学的研究の促進の部分がまだすっぽり抜けています。彼らが策定した宇宙基本法には科学研究の推進が盛り込まれているのですが、おそらく旧宇宙科学研究所=JAXA宇宙科学研究本部の科学衛星計画を続けさせるための文言として入れただけなのでしょう。本当に科学の将来を考えているなら、科学的なポテンシャルのある衛星には科学研究を盛り込むべきところです。 長くなってしまいましたが、こんな感じでいつも反骨精神をもって仕事をしています。科学と教育の未来のために、というポリシーは今後も変わりません。 *** 更新頻度が大変落ちましたが、今年もブログにアクセスしていただきありがとうございました。 来年もよろしくお願いします。
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by ohkishacho カテゴリ
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