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2009年混沌の先
バブルはひらめき、脳科学で読み解く経済危機

脳科学者・茂木 健一郎氏

 私は必ずしもバブルに象徴される経済の変動が悪いものだとは思ってなくて、日本も1990年初頭のバブルの崩壊でかなり学んだことが多いと思います。あれがあったから、日本人は逆に今回の金融危機は意外と傷を受けないで済んでいるではないかと。

 「貯蓄から投資に向かうべきだ」と、様々な人が言っていますが、私は「本当かな」と思っていました。1990年代前半に起きた日本のバブル崩壊で、かなりそういうところを学んでいたからだと思います。今回の米国の金融危機を経験しても、我々は犯人とされている金融工学は捨てずに、今回起こした脆弱性をうまく回避できるような装置を入れた金融工学を生み出すでしょう。

 バブルはそうやって高度化していくプロセスなのでしょう。バブルの発生と崩壊というのは、脳の働きからいうと学習のプロセスなのです。なので、人間の文明が学習していく時に、ある程度避けられない痛みなのかなと。

 だからといって野放しにしておいていいことにはなりません。やはり節度というか、利他的な行動、他人のために何かをするとか、協調するとか、そうした行動も必要だと思います。

多様性を包含するネットワーク社会は強い

 ―― 脳も多数のネットワークで構成されていますが、今回のバブル崩壊も世界中に影響が及んだのは、インターネットの普及に見られるネットワーク型の社会構造が影響されているようですが。

 茂木 ネットワークサイエンスは最近、盛んに研究されています。脳の研究も急速にネットワークサイエンスとしての性質を強めてきています。社会のネットワークの方ですが、利他的な行動の起源について、最近非常に興味深い研究がなされていて、それは何かというと、ある人が所属するコミュニティーが多様になればなるほど、利他的な行動というのは安定に進化しやすいということです。

 例えば会社人間で会社だけにしか忠誠心を持たないような人が集まっている社会って、案外もろいんですね。例えば会社にも所属しているけれども、自分の住んでいるところのコミュニティーでも何かやっている。

 普段実際に会う友達もいながら、SNSなどでメル友を持ち、趣味の仲間もいる。このような各個人が様々な異なる集団に属する社会をスケール・フリー・ネットワークと呼んでいます。

 このスケール・フリー・ネットワークでは、利他的な行動が安定した形で進化しやすいことが分かってきています。インターネットのもたらした新しい形とは、徐々にそういう方向にきているのかなと思います。

 ただこのスケール・フリー・ネットワークだと利他行動が生まれやすいという研究には、1つ副産物があって、人々の所得の分布はすごく不均一なのです。ものすごくお金がいっぱい入ってくる人もいるし、少ししか入ってこない人もいて、それは不可避なものとして出てくるのです。

 だから、ある程度所得の格差は仕方がないとは言いながら、これはバランスの問題で、要するにあまりにも大きすぎると社会不安が起こるので、何でもバランスなんです。経済システムも脳も、生命現象も。新自由主義がマーケットに全部任せるというのは、実は非常にバランスを崩しやすい状況だったと、私の立場からだとそう思いますね。

 ―― スケール・フリー・ネットワークだと所得の格差が生じやすいのですか。

 茂木 直感的に言うと、例えばみんなが同じ組織に属していて、その組織の中で決まっている給与をもらっているなら、そんなに差は生じないですよね。でも、これが例えばみんながフリーランスになって、いろいろなところから自由に仕事をもらって仕事をするようになると、腕のいい人と、悪い人でものすごい差ができてしまいますよね。

 ちょっとそれに似たようなメカニズムでグラフ構造というものがあります。点と点が線で結ばれてつながっていくようなものをグラフ構造と言いますが、グーグルの創業者のサーゲイ・ブリンとラリー・ペイジは、インターネットを史上最大のグラフ構造だと思って解析して、グーグルをつくったわけです。そのグラフの結びつき方が人によって変わってくるので、それで副産物として所得格差が生じてしまうのです。

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日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、NBonline編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。

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