結婚後も職場などで旧姓を名乗る「旧姓使用」について県教育委員会は5日、各市町村教委に使用を認めるよう協力を求める方針を決めた。県教委は昨年5月に「旧姓使用要綱」を作成、08年度から県立学校での使用を認めている。福島金夫県教育長は「男女共同参画社会なのだから当たり前」と、対象を市町村立の小中学校にも広げたい考えだ。
県教委学校人事課によると、市町村立学校の教職員の服務監督権は各市町村教委にあり、県教委の要綱は適用されない。同課の調べでは、これまでに県内の市町村教委が独自で同様の要綱を作成した例はなく、市町村立の小中学校の教職員は職場で旧姓が使えない。福島教育長は「時代に合わせて規則を変える必要がある」として、今月下旬に県内の各市町村教育長が集まる教育長会議で、旧姓使用を認めるよう協力を呼びかけるという。
県教委の要綱では、辞令や30年間の保存が義務づけられている指導要録など法令に基づく文書は戸籍名を使い、職場での呼び名や名刺、日誌などの内部文書は旧姓の使用を認めている。結婚で戸籍上の姓が変わっても、希望すれば同僚や生徒に対して旧姓で通せることになる。
旧姓使用を巡っては、国が01年10月から男女共同参画の施策の一環として導入。県の知事部局と病院局も02年度から導入した。しかし、学校の教職員は市町村をまたぐ人事異動があり、各市町村教委の足並みがそろわなければ現場が混乱するとして、当時は見送られた。今回、県教委が音頭を取ることで、09年度から全県的に学校での旧姓使用が可能になるか注目される。
職場での改姓を避けるため結婚をためらっていた30代の男性教諭は「姓が変わるのはキャリアを積む上でマイナスだと思う。教え子からも認識されなくなるのではと不安だった」と話す。実際には、女性が悩むケースが多かったとみられる。
女性の権利問題に詳しい富岡恵美子弁護士(高崎市)は「根本的には民法が選択的夫婦別姓を採用しないと解決しないが、旧姓使用は男女の多様な生き方・考え方を認める上で重要な取り組み。改姓による不都合は当事者以外には分かりにくく、制度として定着させる必要がある」と話している。【鈴木敦子】
毎日新聞 2009年1月7日 地方版