解説シリーズ


在外子会社の会計処理の統一:第1回(2008.11.27)

新日本ナレッジインスティテュート
新日本有限責任監査法人 公認会計士 若林恒行
1.従来の取り扱いとの違い

これまでの日本公認会計士協会 監査委員会報告第56号「親子会社間の会計処理の統一に関する当面の監査上の取扱い」(以下、委員会報告56号)では、連結子会社と親会社との会計処理の原則および手続きの統一については、同一環境下で行われた同一の性質の取引等につき、原則として統一するとされていましたが、「当面の取扱い」として、在外子会社の会計処理が、企業集団として統一しようとする会計処理と異なる場合でも、当該会計処理が明らかに合理的でないと認められる場合を除いて、親会社と子会社との間で会計処理を統一する必要はないとされてきました。

この「当面の取扱い」は、実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」(以下、対応報告18号)の公表(平成18年5月17日)によって、以下のように変更されています。

(1)在外子会社の財務諸表が、国際財務報告基準(以下、IFRS)又は米国会計基準に準拠して作成されている場合には、連結決算手続にそれらを利用することが可能である。

(2)(1)の場合であっても次に示す項目にあっては、当期純利益が適切に計上されるよう、当該修正額に重要性が乏しい場合を除き、連結決算手続上、当該在外子会社の会計処理を修正しなければならない。

のれんの償却

退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理

研究開発費の支出時費用処理

投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価

会計方針の変更に伴う財務諸表の遡及修正

少数株主損益の会計処理

この「当面の取扱い」の変化を表に示すと次のようになります。

在外子会社の会計処理の統一に関する新旧対照表

項目 委員会報告56号 対応報告18号

原則的な取扱い

同一環境下で行われた同一の取引等については、親子会社間で原則として統一。

当面の取扱いとしての会計処理の統一の必要性

統一は必要なし。

IFRS又は米国会計基準に準拠して作成された財務諸表であれば、連結決算手続上利用可能であるが、列挙された6項目につき修正が必要。

在外子会社が採用している会計処理が明らかに合理的でない場合の対応

連結決算手続上で修正。

2.適用開始時期

対応報告18号は、平成20年4月1日以後開始する連結会計年度に係る連結財務諸表から適用されます。対応報告18号では、四半期会計期間については触れていませんが、適用開始事業年度の第一四半期からの適用となります。3月決算会社では、平成20年4月1日開始事業年度の第一四半期から適用開始です。

3.「当面の取扱い」の変化への対応のための選択肢

在外子会社の会計処理が原則どおり、親会社と同じ日本基準で統一されていれば影響を受けませんが、現地国基準により作成された在外子会社の財務諸表を連結していた場合は、「当面の取扱い」の変更により、次のいずれかを選択する必要があります。

(1)「当面の取扱い」から原則的な取り扱いへ変更

(2)「当面の取扱い」の変更に伴い、在外子会社の財務諸表を現地国基準からIFRS/米国会計基準へ変更

さらに、上記(2)は、次の二つの方法があります。

(2)-① 在外子会社財務諸表の会計処理の原則および手続きをIFRS/米国会計基準に直接変更する方法
(2)-② 在外子会社の財務諸表を現地国基準で作成し、IFRS/米国会計基準に連結決算手続の中で修正する方法

なお、対応報告18号の想定するIFRSは、純粋なIFRSであることに注意が必要です。各国の状況によっては、IFRSの採用を部分的に留保しているケースが見られますが、そのような場合で、IFRSの採用を留保している規定に重要性が認められる場合には、IFRSへの修正が必要です。

4.日本基準への統一について

対応報告18号において、原則的な取り扱いと位置付けられる日本基準に統一するという考え方もあります。この場合のメリットとしては、親会社の連結財務諸表作成にかかる財務報告プロセスの視点から、在外子会社についても国内子会社と合わせた統一的な業務処理手順等を構築することができることなどがありますが、次のようなデメリットも予想されます。

(1)日本基準は、英文をはじめ他の外国語に訳されたものがあまりなく、現地国人の担当者への教育・研修にコストがかかること

(2)現地国基準に基づいた財務諸表に加えて日本基準の財務諸表を作成することになる場合は、事務手続が煩雑となること

(3)親会社の連結決算手続において、日本基準に修正する場合も親会社の事務負担が増加すること

(4)現地国基準の内容に関して親会社で理解していることが前提であるため、現地国基準を理解するための教育・研修にコストがかかること

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