読売新聞 |
国内の陸地では46年ぶりとなる皆既日食が7月22日、鹿児島県の種子島から奄美大島にかけて観測される。
観光資源として生かしたい島民たちだが、離島の厳しい条件の中、受け入れ準備は困難を極めている。
太陽がすっかり隠れる皆既日食。観測地点には、「日食ハンター」と呼ばれる観光客が大挙して押し寄せる。1963年に北海道東部で観測された時間は35秒ほど。今回は、トカラ列島(十島(としま)村)が陸上では最長の6分25秒続き、日食ハンター垂涎(すいぜん)の的となっている。
トカラ列島は南北160キロに点在する12の島からなる。人口624人(昨年11月末)。村の事前調査では、島での観測希望者は2万2000人に上ったという。
しかし、本土と島を結ぶ交通は、定員200人の村営船だけ。宿泊施設は民宿計25軒のみ。電力や水道、医療設備といったインフラは、島民に対応する分しかない。コンビニエンスストアなどもなく、悪石島(あくせきじま)には、飲み物の自動販売機は1台だけだ。
村は島への日食ツアーを大手旅行会社「近畿日本ツーリスト」(KNT)に委託したが、同社の担当者は「旅行会社の仕事の枠を超えている」と苦笑いする。
村も、電力会社と発電機のリース交渉を行い、水タンク(30トン)の増設、小中学校体育館の宿泊施設への一時転用、校庭へのテント村設置など知恵を絞った。ツアー定員1500人分の輸送手段は、大型客船などを使って確保した。日赤の協力で医師も派遣される。
鳥越哲・村地域振興室長は「受け入れ準備は半分まで進んだ」と語る。
仮設トイレなどは受益者負担のため、ツアー価格は30万円台からと海外旅行並みだが、年末に締め切った1次募集は2056人が応募し、倍率は約2・5倍。14日から2次募集も始まる。
頭の痛い問題もある。プレジャーボートなどで上陸する飛び込み客の来島だ。「インフラも食料も、住民とツアー定員分しか用意できない。『体力があるから大丈夫』と言って来られても受け入れられない」と鳥越室長。接岸規制も検討しているが、「具体策はこれから」だ。
5日、十島村役場で行われた仕事始め式で、敷根忠昭村長は「皆既日食を一過性のイベントとして終わらせるのではなく、交流の拡大などにつながるよう努力してほしい」と力を込めた。村は島民と来島客の交流イベントも企画する予定だが、島民の中には「ゴミと疲れが残るだけではないか」と、その後を心配する声もある。
気になるのが、当日や前後の天候だ。台風が直撃すれば、島に缶詰め状態になる事態も予想される。KNTの担当者は「対応はこれから詰めなければ」と不安は尽きない。(鹿児島支局 北川洋平、配信部 積光浩)
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