「行政改革といふことは、よく気を付けないと弱い者いぢめになるヨ」。警告を発しているのは、幕末・明治の政治家だった勝海舟だ。
講談社学術文庫の「氷川清話」(江藤淳、松浦玲編)から引用した。勝は、幕府方の代表として江戸城の無血開城を果たした。晩年は痛烈な時局批評を行い、冒頭の談話は、明治も二十六年になった一八九三年のものである。
改革を成功させる秘訣(ひけつ)も語っている。「全体、改革といふことは、公平でなくてはいけない。そして大きい者から始めて、小さいものを後にするがよいヨ。言ひ換へれば、改革者が一番に自分を改革するのサ」。
平成の時代、市場と規制緩和を重視した小泉改革が推し進められた結果、地方の切り捨てや格差が深刻化した。いま、地域は疲弊し、突然雇用を打ち切られる非正規労働者が続出する。小泉改革は弱い者いじめにつながったという負の側面が、急激な景気の悪化に伴って一気に表出した。
年明け早々、通常国会が始まった。次期衆院選が迫り、国会は緊迫の度を増そう。問題は論戦の中身だ。安心を取り戻すために、社会の安全網を強固にする持続的な社会保障制度構築へ政策の転換が必要になる。
改革が弱い者いじめであってはならない。勝の警告を、現代の政治家は心すべきだ。