孔子は「大人は正々堂々と、小人はこそこそする」と言った。
例えば……首相が高級車でハローワークに乗り付け、パソコンの求人欄に見入る失業者の前で、ひじをついた。
「今まで何していたんだ? これがやりたい、というのがないと相談される方もな……。何かありませんかね、と言うんじゃ、なかなか仕事は見つからない」とひとくさり。「目的意識がないと雇う方もその気にならない。何をやりたいかを決めないと就職は難しい」と何やら説教風である。
冗談じゃない! 平成大不況、選びたいけど、選んでいたら住む家もなくなる。説教された方は「世間知らずに何が分かる!」と言いたげな表情である。ひじをつく動作に、首相の無礼、無知、無能、無愛(情)が見て取れる。
漢字なんて読めなくてもよい。毎夜、ホテルで酒を飲んでもよい。堂々としていれば許される。でも……こそこそハローワークを視察するパフォーマンスだけはやめてくれ! 「人気取り」を隠そうとすると、つい高慢になる。これは、「年越し派遣村」を敵に回す「愚かなマンガ脳」がなせる業だ。
うかつにも、日本人はいつも御曹司を選んだ。「他人の釜の飯を食ったことのない連中」を当選させた。その結果、政治に活力がうせ、(失礼だが)「小人マンガ脳」の世襲首相が次々に生まれた。そして日本は劣化した。福田、麻生内閣の閣僚は半分以上が世襲議員。民主党のトップも同じだ。
能力、人格、識見……いずれを取っても指導者にふさわしい人物が、地盤、看板、カバン(資金力)を持つ世襲候補に敗れ、政治への道を閉ざされた。日本の悲劇である。
憲法第44条に「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但(ただ)し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない」とある。特定の家柄・階層に政治を独占させない規定である。
ところが、この条文までが世襲議員を守る根拠になっている。「世襲議員規制法案」が検討されると、御曹司が「憲法違反だ!」。第44条の「門地による差別」に当たると主張するのだ。
自由・平等が逆に「特定の家柄の独占」を許す皮肉? ローマ帝国の昔から世襲は国を滅ぼすのだが……「小人マンガ脳の支配」が永遠に続くとすれば、民主主義は間違いなく形骸(けいがい)化する。(遅れましたが、読者の皆さん、今年もよろしく!)(専門編集委員)
毎日新聞 2009年1月6日 東京夕刊
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