災害共済給付制度に基づく死亡見舞金について、いじめに起因する神経症と診断されて治療中に自殺した愛知県内の女子高校生の遺族が07年秋、窓口の独立行政法人・日本スポーツ振興センター名古屋支所(名古屋市)に問い合わせたところ「高校生は対象外」と門前払いされていたことが分かった。実際は高校生でも精神疾患などで正常な判断ができなかったと認められれば給付される場合があり、今年7月になって申請は受理された。対応した支所職員は「自分で無理だと判断してしまった」とミスを認めている。【飯田和樹】
門前払いされたのは、愛知県刈谷市の高橋典子さん(50)。長女美桜子(みおこ)さん(当時16歳)は中学時代のいじめの後遺症から解離性障害などと診断され、06年8月に当時住んでいた同県岩倉市のマンションで飛び降り自殺した。
高橋さんが約1年後、見舞金を給付申請しようと同支所に電話で問い合わせると、担当の女性職員から「高校生は対象外。請求しても給付されない」などと言われた。その後も高橋さんは複数回、長女がいじめの後遺症で精神科に通院していたことなどを説明したが、職員は「給付されない」と断言。同制度に基づき、死亡見舞金と別に給付される可能性がある通院医療費の説明もしなかった。今年2月、長女が生前通っていた私立高校も支所に問い合わせたが、同様の対応をされた。
センター法施行令などには「高校生の故意の死亡には給付を行わない」との趣旨の文言がある。しかしセンター本部(東京都)は「精神疾患などで正常な判断能力が失われている場合は故意とはいえない」と説明。その上で支所の対応を「原理原則をそのまま言ってしまった。ただ施行令に基づくと基本的には出ないので(対応は)間違いとはいえない」としている。
高橋さんは「聞く耳を持たない態度でショックを受けた」と話している。
一方、対応した支所職員は「自分でこのケースは無理だと判断し、期待感を抱かせない方がいいと思ったが、もう少し対応の仕方を考えるべきだった。ミスとして認め反省している」と話している。
高橋さんは一度は申請をあきらめたが、その後、弁護士に相談。弁護士を代理人として申請期限(事故発生から2年)ぎりぎりの今年7月、私立高校を通じて正式に給付申請した。センターは現在審査中。
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■解説
災害共済給付制度の根拠となる日本スポーツ振興センター法施行令や文部科学省令には「高等学校の生徒の自己の故意による死亡は給付の対象とはならない」などの文言がある。今回の問題は、職員がこれを字面通りに自己解釈したため起きたが、専門家からはこの項目そのものに疑問の声も上がっている。
同制度は国と学校設置者、保護者の負担による共済制度。学校管理下での事故や事件で児童生徒がけがをしたり、死亡した場合、学校設置者からの申請で医療費・死亡見舞金などを支給する。保護者も学校設置者を通じて申請できる。07年7月には文部科学省が省令改正し、対象外だった学校外での自殺も支給対象とした。
「高校生の故意による死亡」を除外する項目について、センター災害共済課は「高校生は自己判断できる年齢であるという考え方」と説明する。だがこの項目が施行令に盛り込まれたのは、半世紀前の1960年の公布時。当時はいじめ自殺が社会問題化しておらず、自殺に対する認識も現在とは異なった。
政府が07年に策定した自殺総合対策大綱には、自殺を図った人の心の状態について「大多数が精神疾患を発症しており、正常な判断を行うことができない状態」と書かれている。自殺問題に詳しい精神科医の吉川武彦・国立精神・神経センター精神保健研究所名誉所長も「いじめを受けるというのは本人にとっては非常にストレスがかかる状態。中学生でも高校生でも判断能力は落ちる」と話す。
「高校生だから自分の判断で死んだ」と遺族を突き放す時代遅れともいえる項目には、見直す余地があるだろう。【飯田和樹】
毎日新聞 2008年12月29日 中部朝刊