
《14》男子サッカー・大久保嘉人選手
小嶺忠敏 国見高総監督《下》
心は謙虚な暴れん坊
大久保の闘争心は間違った方向に向いていた。相手のボールをタックルで奪い、反則で警告を受け、退場することが目立つようになった。まるでピッチの“暴れん坊”。高校2年の春、小嶺は鬼の形相で大久保を呼びつけた。
「11人でプレーするのがいいか、10人でプレーする方がいいか、考えてみろ! お前が1人抜けることでチームがどうなると思うか!」
大久保はうなだれながら、即答した。
「11人でプレーする方がいいです」
このやりとりで大久保は変わった。戦う気持ちを、自身の技を磨くことに費やした。往復12キロの坂道を走るなどの練習で筋力を付け、自主トレではドリブル練習に没頭。それ以来、公式戦ではイエローカードをもらうことはなくなった。
「彼は、人にはない動物的な感覚を持っている。教わってやれるものではない予想外のシュートやプレーをする選手だった」
高校3年時はストライカーとして高校総体、国体、高校選手権を制覇する「3冠」の原動力となった。だが、C大阪に入団してから昔の悪癖が頭をもたげた。昨年のリーグ戦では、ワーストの14回の警告。フル代表でも同12月の韓国戦で、わずか18分間で2度の警告を受けて退場している。
「まだ子どもなんですよ。有名になって周りがはれ物に触る感じでいる。それではいけない。厳しく説けば分かる子ですよ」
小嶺は試合後、選手に反省文を書かせる。ともにアテネ五輪出場をかけて戦った平山相太は前を向く内容が多かったが、大久保には書かれたその字に驚かされた。文字はその人物の性格を示す。
「嘉人は達筆な文字を書いていた。意外だったね。でも、それだけ謙虚な心を持った選手なんです」
今、大久保は分岐点に立たされている。2月下旬にフル代表の合宿先から無断外出。ジーコ監督はその罰として、代表に招集することを見送ったままだ。
「先日の電話で『誰にでも失敗はある。これからが人生のスタートだ』と嘉人に言った。アテネへのアドバイス? いらん反則はするな!」
手元から離れて3年がたっても、小嶺が大久保を見つめる目は師としての厳しさがあふれている。
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