2009年1月6日
夫ではない5人の男性との性愛に揺れ、成長していく女性の姿を描いた村山由佳さんの『ダブル・ファンタジー』(文芸春秋)が、10日に発行される。週刊誌連載中から話題となった女性の視点での官能小説であり、女性が社会や家族の刷り込みを超えて自立する物語になっている。
主人公は35歳の女性脚本家・奈津。脚本の表現までも支配しようとする夫のもとを離れ、出張ホストや演出家、編集者、僧侶、役者などと関係を持つ。せつない青春恋愛小説を得意としてきた村山さんが、今回はほぼ等身大の女性を主人公とした。
「これを書かなければこの先には進めないという気持ちがあって、これは事実だろうか、と読まれることをいちいち怖がっていたくなかった。どうせ裸になるんなら、往来の真ん中で素っ裸になってやろうと……。自分自身も人生の区切りを迎えて、主人公の心の揺れに怖がらずに同調し、答えの分からないまま書き始めた作品です。ものを書き続けていく上での一つの通過儀礼になった気がします」
あこがれていた演出家とののみ込まれるような体験ばかりでなく、キャンドルをともしてロマンチックな雰囲気を出そうとするホストにさめる描写など、男性の性幻想を打ち壊していく視点もある。
「性の容赦のなさとこっけいさを両方描いてみたかった。女性は性を通して変わらずにいることが難しいからこそ、性愛を描くという一点において、女性作家は深いところに到達できるのではないでしょうか。この小説における男たちとのベッドシーンの肝は、行為の描写ではなく奈津の気持ちに寄り添った心情描写なのです」
男性との経験を重ねるなかで、母親や家族、社会による刷り込みや幻想から解放されていく。「自由を手に入れるためには孤独という代償が必要。その寂しさを引き受けないと、独りで立つことはできない。主人公だけでなく、私自身が体得した覚悟です」
映画化もされた『天使の卵』や「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズの読者にとっては、とまどう作品になったかもしれない。
「私のなかにこういうものがあるということはすでに伝わっているのではないでしょうか。性表現は過剰になりましたが、読み終えたら、やっぱり村山由佳の小説だなって思ってもらえるはずです」
(加藤修)