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【社会】時限措置 不安抱え 生活保護申請にも壁 派遣村引っ越し2009年1月6日 朝刊 
 住居や仕事を失い「年越し派遣村」(東京・日比谷公園)に身を寄せていた派遣労働者ら約三百人が五日、都や中央区が用意した都内四施設に移った。寒さをしのぐため、体育館で毛布にくるまる光景は「震災被災者」をほうふつさせる。生活保護の申請はできても、暮らしの再建に不安はぬぐえない。国会で同日開かれた集会には、与野党の議員約九十人が結集。“村民”たちは派遣切りの大波が予想される年度末に向け、抜本的な対策の実施を熱望した。 日が沈み、気温がぐっと下がった午後五時前。元派遣社員ら労働者たちが滞在する施設のひとつ、東京都中央区の「京華スクエア」に、派遣村実行委員会がチャーターしたバス二台に分乗した八十人が到着した。 元派遣社員らは衣服などが入ったバッグを持ち、受け付けを済ませた後、自分の寝る場所を確保。 ボランティアから手渡された夕食の弁当を食べ始めると、疲労と緊張が入り交じる硬い表情が和らいだ。石油ストーブが置かれた館内には、人数分の毛布と布団が用意された。 「まるで震災の被災者みたいですね」。都内出身の二十代の男性は、館内を見渡しながら力なく笑う。この男性は先月三十一日から派遣村に滞在。池袋のインターネットカフェで五カ月間寝泊まりし、建築関係の派遣社員として働いたが、仕事がなくなった。「仕事を探したい。人生に自信を持ちたい」と話した。 所持金が六十五円という元派遣社員で高知県出身の男性(46)も「仕事を探して頑張っていきたい」。静岡県の機械工場で派遣社員として働いていた男性(28)は「映像関係の仕事に就きたい。悪い方に考えがちだけど、人生を切り開きたい」などと、口々に仕事への意欲を語った。 一方、派遣村で労働・生活相談を受けた約三百五十人のうち、雇用保険の失業給付を受けていないなどの事情がある約二百三十人が生活保護を希望。財政難に悩む区市町村の中には住民票がないことを理由に申請を拒む職員もいるが、この日は弁護士などが付き添ったこともあり、日比谷公園を現在地として、約七十人が千代田区役所で、生活保護を集団申請した。ただ、受給までにあと数回窓口に通い、資産や扶養親族の調査を受ける必要がある。 区が貸し付けた交通費は千円。「自立生活サポートセンター・もやい」の湯浅誠事務局長は「これでは(入居期限の)十二日までに次の職探しもアパート探しもできない。自立を促すはずなのに、矛盾している」と指摘する。 元派遣社員らが滞在する都内の各施設には、厚生労働省の東京労働局が就職相談や求人を紹介する窓口を設置。社員寮に入居できるものなど三千人分の求人を用意し、十二日まで対応する。 ◆申請者らの滞在にカプセルホテルも 都が検討住まいや仕事を失った人たちを適切に保護するため、東京都は、都内すべての福祉事務所に、失業者の生活困窮相談に積極的に対応するよう通知している。また、生活保護の申請者らが一時的な滞在場所とする施設が満員になり、新たに紹介できない事態に備え、近くのカプセルホテルなどの暫定活用も視野に情報収集するようあらためて要請した。 都福祉保健局によると、通知は昨年十二月二十二日付。努力して求職活動しているのに就職に至らず、生活に困窮している場合は「生活保護が必要な状態」と認め、路上生活化するのを未然に防ぐよう積極対応を求めた。 生活保護の適用を受けるには、屋根付きの滞在場所が必要とされる。そうしたケースに対応するため、社会福祉法に基づき特定非営利活動法人(NPO法人)などが運営する施設が、都内に約百六十カ所(約五千二百人分)あるが、定員に対する入所率は既に九割超に上るという。 ◆坂本政務官が疑念『本当に働こうとしている人か』坂本哲志総務大臣政務官は五日、総務省の仕事始め式で、仕事や住居を失った労働者らが宿泊していた日比谷公園(東京都千代田区)の「年越し派遣村」について「本当にまじめに働こうとしている人たちが集まっているのかという気もした」と述べた。失業者を支援する市民団体などの反発を招きそうだ。 同政務官は派遣村の活動について「四十年前の学生紛争の時に『学内を開放しろ』『学長出てこい』(などと学生らが要求した)、そういう戦略のようなものが垣間見える気がした」とも述べた。 同政務官は、熊本日日新聞記者、熊本県議を経て、衆院熊本3区から当選二回。 
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