ホーム > きょうの社説


2009年1月6日

◎富裕層の誘致 手薄な分野に布石打ちたい

 中流意識の強い日本人には、確かに手薄な分野だったかもしれない。北陸に世界の富裕 層を呼び込むため、金沢市で来月開催される国際会議は、一流志向の旅行者を誘致し、もてなすときに具体的に何が欠けているかを知る格好の機会になるだろう。

 世界の著名なリゾート地には、世界のお金持ちを満足させるホテルやレストラン、高級 車やヘリコプターのレンタルなどを含めた旅行プランがそろっているが、北陸にはそうした需要にこたえるハードやソフトが十分とは思えない。目の肥えた外国人のセレブリティ(名士・著名人)を満足させるには、何より「本物」を提供しなくてはならないが、不足しているものを調査し、解決策を探るなかで、観光地としての石川や富山の弱点も見えてくるのではないか。特に欧米のガイドブックで紹介されるケースが増えている金沢のブランド力に一層の磨きをかけるため、国際会議を富裕層対策の足がかりにしたい。

 金沢市の県立美術館で二月に開催される会議は、昨年、国の「地方の元気再生事業」に 採択された事業で、世界から約二百五十人が参加する。米・ニューヨークの有名レストラン総料理長や高級リゾートホテルチェーンの創業者ら海外富裕層の消費動向に詳しい著名人が講師となり、富裕層の生活スタイルや興味の対象、求める旅行商品などについて情報交換する。

 欧米ではラグジュアリー旅行(贅沢旅行)市場が確立されており、フランス・カンヌで 二〇〇七年十二月に開催された富裕層向け旅行博「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット(ILTM)」の公式イベントでは、金沢と京都の伝統文化が紹介された。

 世界の旅行市場では、旅行者の3%に過ぎない富裕層が、全体の20%相当を消費する という。たとえばインドネシアのリゾート地の場合、下は一泊五百円以下、上は一泊百万円を超えるようなクラスまで、旅行者の多様なニーズにこたえるホテルがそろっている。国際会議を通じて、富裕層の好みを正確に把握し、誘致に生かしてほしい。

◎オバマ政権と日本 助言もできる協力関係を

 オバマ政権の発足が迫ってきた。米国における共和党から民主党への政権交代である。 一口で言うなら、内政では挙国一致を、外交では対話をそれぞれ核にし、「民主主義」とか「希望」とかいう理念をよみがえらせる旗を掲げた政権の誕生だ。日本としては新政権発足を米国との協力関係を好ましい方向へ深化させる機会にしたい。

 内政では、指名演説や勝利演説で約束したように勤労世帯に対する減税、雇用確保、国 内に雇用を生む企業への優遇措置、石油への依存を減らす再生可能エネルギーの開発などを進め、行き過ぎた金融資本主義の是正に努めることになろう。外交では、ブッシュ政権は地球温暖化対策の京都議定書を含む国連気候変動枠組み条約から離脱したが、オバマ氏は条約への復帰を公約し、「二〇五〇年までに排出ガスを一九九〇年比で80%削減する」との意欲や、国際協調路線を表明している。要するに、国際協調よりも単独行動に軸足を置き、孤立を招いたブッシュ政権とは大きく異なる路線になる。

 オバマ氏は、昨年のクリスマス演説で自らの政権が最優先で取り組む課題としてイラク 戦争やアフガニスタンにおけるテロとの戦いの終結、金融危機に端を発した世界的な経済危機の解決を挙げたが、どれも米国だけでは終息させることができなくなっている。とはいえ、米国に取って代わって世界を安定へ導く力と器量を持つ国は見当たらない。日本、中国、ロシアも米国に代わることなどできない。欧州連合(EU)にしても経済危機で米国に代わる力などないことがあからさまになった。

 日本にできることは新政権の国際協調路線への協力だ。率直に助言も行いたい。日本も 自らの大局観を持ち、主張していく国にならねばなるまい。世界との協調を重視する米新政権の変化に対応するには日本も大きく変わらねばならないということだ。幸い新政権の対日問題の顧問にはしっかりした知日派が顔を連ねている。が、民主党との人脈の貧困が指摘される日本としては人脈づくりをおろそかにできない。


ホームへ