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“世界で売りたい” 日本のニュー・サービス

理容業界に革命をもたらした
究極のプロセス・イノベーション

10分、1000円で満足していただきます

 今回は、第1回で紹介した9つのレガシーのうち、5つ目のレガシーである「『サービス業は製造業とは異なり業務の効率化がしづらい』は本当か?」に対する1つのヒントとして、QB HOUSEの事例を紹介する。

 サービス業は、生産と消費が同時に行われるという「同時性」をその特徴としている。製造業は、研究開発から調達、生産、物流、販売、サービスと、工程ごとに分けて考えることができる。いわゆるバリューチェーンと呼ばれる一連の業務プロセス単位で効率化を図ったり、業務プロセスのアウトソーシングや整理統合によって効率化を図ることも可能である。しかし、サービス業ではその「同時性」によって工程を分離し、工程単位で効率化を図ることが難しいと言われている。

 このことは、確からしいのか否か。QB HOUSEの取り組みは、サービス業であっても業務プロセスを科学的に分析し、効率化を図ることが可能であるということを示唆している。

 駅中やショッピングモールでよく目にするQB HOUSEというヘアカット専門店を運営するのは、キュービーネット(本社:東京中央区築地)である。「10分の身だしなみ」というキャッチフレーズの通り、10分で1プライス1メニューの整髪を行うヘアカット専門店。店舗には電話もトイレもない。スタッフは髪を切るというサービスを提供するだけで、電話応対、会計やトイレ掃除などは行わずにヘアカットのみに集中することができる。

出発は利用する立場からの不満

 創業者の小西國義氏は、以前赤坂の高級理容室を利用した際、髪を切るだけで半日もかかることに疑問を感じていた。理容室に本当に求められているのは髪を切ることだけ、シャンプーやマッサージ、顔剃りなどのサービスは理容室でしなくてもよいと考えて現在のビジネスモデルを構築した。

 当初は業界から「技術を安売りしている」というネガティブな反応があり、圧力を受けたこともあったが、顧客からの支持はあった。理美容業界が「床屋」から「美容室」へ構造変化する中で、床屋の限界を感じた技術者が集まった。鉄道会社との提携、その後の駅中ビジネスブームもきっかけとなって、QB HOUSEブランドが拡大していった。

「調髪」サービスを求める人がターゲット

 QB HOUSEのターゲット層は大胆に髪形を変えたりというようなクリエイティブさを求める人ではない。自分に合った髪型をキープしたい人に対して、「調髪」=髪形のメンテナンスサービスを提供するのが同社のモデルである。そもそもターゲットが違うので、既存の理美容室とは競合しないという。同じ人でも、髪形を変えたい時とキープしたい時で利用する店が異なってもいい。

 「このポジショニングは戦略的というよりは、ひらめきです。」と岩井一隆社長はコメントする。10分だけであればサラリーマンが移動途中などの合間に時間を有効活用できる。都心では日中でも売り上げが落ちることがないほどの繁盛ぶりである。

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著者プロフィール

新井祥子(あらい しょうこ)

新井祥子 1981年、東京都生まれ。2004年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2006年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。専攻は環境学。同年、株式会社野村総合研究所入社。現在は、社会産業コンサルティング部コンサルタント。専門は、サービス業の人材育成、アジアにおける産業人材育成など。

この特集は、Epsonの提供でお送りします
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