へき地診療所の勤務は過酷だ。患者数は少ないものの、たった一人で急患まで診るため気が休まる時間はない。遠方への外出はもちろん、夜の飲酒も控えなくてはならない。一方で高度医療に触れる機会も少なく、専門医を目指す若い医師らが敬遠したがるのは当然と言える。
へき地に医師を充足させるため、1972年、旧自治省が主導した国家的プロジェクトとして自治医科大学(栃木県下野市)が創設された。「地域医療の充実」を理念に掲げ、学生から授業料をとらず、47都道府県の出資で運営。毎年、各都道府県から2~3人の入学生をとり、全寮制で総合医に必要な知識を教える。卒業生は出身都道府県に帰り、知事の指定する医療機関に9年間勤めれば、約3000万円の授業料は全額免除される。
9年間の義務年限を果たす卒業生は全体の97%。全国に散っていく卒業生が、へき地を含めた地域医療を支えている。自治医大学生部長を務める梶井英治・医学部教授は「世界的にもこうした制度はまれ。行政と一体化して地域の信頼を得ることで、地域医療のモデルケースとなることができた」と語る。
県内の卒業生はこれまで64人に上る。群馬では、9年のうち3年をへき地勤務と定めており、現在、9カ所あるへき地診療所のうち、6カ所に卒業生が着任している。
一方で、新たなシステムの必要性を指摘する声もある。各都道府県が一律に負担する、毎年1億2700万円の出資は決して安くない。県医務課は「他の方策がなく、自治医大に頼っているのが実情。現状の医療体制の中で、自治医大の位置づけは重要にならざるを得ない」というが、外部頼みでいいのかという反省もある。
県は08年度、国の緊急医師確保対策に基づき、群馬大学医学部が新設した「地域枠」(5人)への補助を始めた。卒業後、県内で10年勤務すれば、在学中に貸与する入学金相当額と月15万円の奨学資金の返済を免除する制度だ。
へき地での勤務を義務付けるものではなく、自治医大のシステムとどのように併存していくか。手探りのスタートとなるが、同課は「自分たちの手で、地域の医療体制を確立する一歩となれば」と期待を込めている。=つづく
毎日新聞 2009年1月6日 地方版