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社説:年越し派遣村 今度こそ政治の出番だ

 東京・日比谷公園の「年越し派遣村」に男性(55)がたどり着いたのは年明けの2日。それまでの3日間、上野公園で野宿したが、新聞で村のことを知った。群馬県の自動車部品工場の期間従業員だったが、昨年10月に景気悪化を理由に突然契約を切られ、職を探しに上京した。

 「テントで寝ることができ、1日3食。本当にありがたい。人間の温かさを感じました」。男性は5日、村の撤収とともに次の宿泊場所となる東京都の施設に移動した。そこで新たな仕事探しを始める。「地方にもこうした動きが広がってほしい」と男性は願う。

 派遣村は、仕事と住まいを失った派遣社員や期間従業員らを支援しようと、NPO法人や労働団体などでつくる実行委員会が開設した。12月31日~1月5日の期間中、村に入った労働者は約500人と、実行委の予想をはるかに上回った。茨城から歩いて来た人、自殺しようとしたばかりの人もいた。昨年秋以降急増する「非正規切り」の深刻さを改めて痛感する。

 実行委の要請に応じ、厚生労働省は講堂を宿泊場所に提供する異例の展開も見せた。使用期限が切れる5日以降が心配されたが、都や区の計4施設で当面の宿泊が認められ、食事も用意されることになった。ひとまず、ほっとする思いだ。

 集まった労働者の多さだけでなく、1700人近くがボランティア登録し、支援活動に当たったことも大規模被災地救援を除けば前例のないことだ。「何か自分にできることはないか」と高校生や高齢者も参加した。多くの労働者たちが人の善意をかみしめた。派遣村の体験を今後、各地の支援につなげたい。

 派遣村は、路頭に迷う人々に率先して救いの手を差しのべようとはしない政府や自治体の姿も浮き彫りにした。厚労省も都も、公園のテントでの寝泊まりを認識しながら実行委が働きかけるまで、宿泊施設を用意するような動きはなかった。行政は支援を民間に任せて後手に回ってきたことを率直に反省してほしい。

 行政が早急に支援しなければならないのは、もちろんこの500人だけではない。各地で、仕事探しに加え、住居確保、生活保護の手続きなど、きめ細かな支援を速やかに行うべきだ。

 抜本的な雇用・住宅対策を講じるのは、政治の役目だ。何よりも、企業による非正規切りの横行を許さない制度づくりが急務だ。舛添要一厚労相は「個人的には」と断りながら、派遣を製造業にまで解禁した現行制度に疑問を呈し、見直しの検討に言及した。言葉だけでなく、実行に移してもらいたい。

 それにしても、派遣村の人々について坂本哲志総務政務官は「本当にまじめに働こうとしているのか」と述べた。深刻さを理解しない発言が政府内から出ることにあきれるばかりだ。

毎日新聞 2009年1月6日 東京朝刊

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