今年の世界経済は、米国発の金融危機が世界同時不況となって各国の実体経済に波及し、一層深刻化しそうだ。
二〇〇二年以来回復を続けてきた日本経済は昨年、後退局面入りした。日経平均株価(225種)はバブル後最安値を更新し、十月には一時七〇〇〇円を割り込んだ。株価下落で一部上場企業の株式時価総額は百九十六兆円減少した。日本の国内総生産(GDP)の約四割の価値が吹き飛んだ計算である。
国際通貨基金(IMF)は、日本の成長率が前年比0・2%減になるなど、米国、欧州ユーロ圏を含めた先進国がそろってマイナス成長になるとの予測を発表した。新興国も含めた世界全体ではやっと2・2%になる。
「百年に一度」といわれる危機をいかに乗り切るかは、今年の日本経済の最大の課題だ。官民総力を挙げて取り組む必要がある。
自由化の結果
世界同時不況は、米ブッシュ政権下で進められた金融自由化がもたらした結果といえよう。金融工学を駆使した金融商品が開発され、金融機関は巨額の利益を求めて、無謀な投資や貸し付けに走った。
信用力の低い人向けに貸し付けを行うサブプライム住宅ローンはそうした商品の典型だった。導入された当時は米政府も金融機関も破たんの危険性があることを見抜くことはできず、返済不能者の増加で住宅バブルは崩壊した。株主や投資家の利益のみを重視する米国流金融資本主義の在り方は改められるべきだ。
米証券大手のリーマン・ブラザーズの破たんから始まった金融危機は拡大し、ローンやクレジットに依存していた米国の個人消費も一気に冷え込ませた。
落ち込みの直撃を受けたのが米自動車産業だ。資金繰りに窮したゼネラル・モーターズ(GM)などビッグスリー(大手三社)は政府による救済を求めた。
日本の自動車産業も打撃を受けた。輸出の急激な減少と円高でトヨタ自動車は、今年三月期で赤字に転落する見通しとなった。一年前に売上高で過去最高益だったのがうそのような事態である。
安全網機能せず
最も厳しい影響を受けているのは国内の雇用だ。厚生労働省の調べでは、三月までに失職か失職見込みとなる派遣社員などの非正規労働者は全国で約八万五千人に上る。わずか一カ月前の調査から五万五千人も増えるハイペースぶりである。
自動車など輸出型の製造業の業績悪化で、派遣切りや契約解除などの雇用調整が続いているからだ。大学や高校の新卒者に対する内定取り消しも増えている。
解雇され収入を失った派遣労働者にとっては、つらい年末年始だった。社宅を出てネットカフェをねぐらにする若者、公園や橋の下で暮らすホームレスも出ている。
かつては貧富の差が少なかった日本社会は、いつからこんな状態になったのか。企業には雇用を守る社会的責任があることを忘れてはなるまい。
失業した際に社会保障としてのセーフティーネット(安全網)が機能していないことも問題だ。抜本的に見直し、安心して暮らせる社会の構築が急務である。
鍵握る米国再生
不況から回復するのはいつになるのか。日本では正社員の残業代カットや賃下げが広がれば個人消費は一段と落ち込み、景気悪化と物価下落のデフレスパイラルに陥る可能性も指摘されている。エコノミストは今年前半まで厳しい状況が続くとの見方だ。
今月就任するオバマ次期米大統領は、二年間で三百万人の新規雇用を創出し、大規模なインフラ整備などの公共事業に最大七千七百五十億ドル(約七十兆円)の対策を実施する考えだ。不況脱却は米国経済再生と中国など新興国の動向が鍵となる。
持続可能な成長を目指すためには外需依存から脱却しなければならない。日本の景気回復はこれまで輸出産業が引っ張ってきたが、今後は世界景気や原油高など外的要因に影響されるリスクを解消することが重要になる。内需主導で国内消費を活発化させる経済構造へ転換するための知恵を絞りたい。