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【社会】

妊産婦受け入れ拒否 対策始動 『病院探し』役で効果

2009年1月6日 朝刊

当直室でパソコン画面を見ながら、搬送コーディネーターを務める光田信明産科部長=先月、大阪府立母子保健総合医療センターで

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 急病の妊産婦の受け入れ拒否をなくそうと、札幌市と大阪府が始めた取り組みが、医療関係者の注目を集めている。札幌市は昨秋から、各病院の新生児集中治療室(NICU)の空き状況を毎夕チェックし、事前に急患の受け入れ先を決定。大阪府も約一年前から、搬送先の病院探しを専門に行う「当直医」を配置した。全国の病院の参考になりそうだ。 (橋本誠、砂本紅年)

 こうした先進的な取り組みを受け、厚生労働省は二〇〇九年度予算案で、総合周産期母子医療センターが複数ある十都道府県のセンターに、母体搬送コーディネーター(調整役)を配置するため、約一億五千万円を計上。“たらい回し”を防ぐあの手この手の対策を進める方針だ。

 札幌市では、同市夜間急病センターの助産師がコーディネーターを務め、重症患者を扱う三次救急指定の六病院から、毎日午後六時にNICUと産科病床の空き状況を電話やファクスで確認する。

 「○」(空床あり)「△」(満床だが、やりくりなどで受け入れ可)「×」(満床などで受け入れ不可)などの回答に基づき、一番目と二番目の搬送先病院を決める。コーディネーターは朝まで常駐し、電話してきた医師や救急隊に搬送先を伝えるシステムだ。

 空床がない時は市外の病院に受け入れを要請。指定病院が途中で満床になった場合は別の病院を指定する。試行後二カ月間の実績は妊婦からの電話相談も含めて三百四十六件の電話をコーディネーターが受け、搬送指定病院に六件、入院が必要な二次救急医療機関に四十一件を紹介した。

 札幌市では一昨年十一月、自宅で生まれた未熟児が市内七病院に受け入れを断られて死亡する事故が起きている。北海道大学病院の水上尚典教授は「中長期的には産婦人科医やNICUを増やすことが必要だが、急にはできない。新制度で搬送時間が短縮され、医師が電話をかけまくるようなこともなくなった」と評価する。

◆大阪府 医師が調整に名乗り

 大阪府は一昨年十一月、全国に先駆けて医師による搬送コーディネーターを府立母子保健総合医療センターに事業委託した。コーディネーターは二人の当直医とは別に、搬送先の病院探しを専門とするいわば「第三の当直医」だ。センターの部長や副部長、OBなどベテラン産科医十五−二十人が交代で担う。

 光田信明産科部長は「どの病院にどんな医師がいて、どういう状況なのか全部頭に入っている。手術中で手が離せないと言っても、『あと何分で終わるの? そしたら入れてもらえるね』と“押し”がきく」と話し、医師が調整役になることの利点を強調する。

 約二十年前に発足した病院間のネットワークも、搬送調整を支える。府内四十病院の空きベッド状況などをパソコンで検索できるためだ。二カ月に一回、運営委員会があり「コーディネーターと現場の医師は互いに顔が見える関係にある」と光田部長は言う。

 搬送実績は年間約百件。以前は搬送先の決定まで平均五十分かかったが、三十分に短縮した。センターにいなくても自宅や別の病院でコーディネーターを務めることも可能だ。末原則幸副院長は「将来は近畿広域を対象に常勤の専任医を雇用したい」と話している。

 

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