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【政論探求】伊勢参拝と「蒼生安寧」
新年1月4日に首相が伊勢神宮を参拝するのが恒例となったのは、佐藤栄作首相のころからという。麻生太郎首相は参拝したが、次期首相を目指すはずの民主党の小沢一郎代表は出向かなかった。この結果がどう出るか。
政治記者の駆け出し時代、クリスチャンの大平正芳首相の伊勢参拝に同行した。五十鈴川の宇治橋を渡って、木立に囲まれた参道を行くと、なんとも厳粛な気持ちになったのをいまだに覚えている。
村山富市首相は平成7年には風邪で取りやめたが、翌8年に正月参拝を実施、その翌日に退陣表明した。「お伊勢さんで天の啓示を受けたのでは」とささやかれたものだ。
麻生首相は伊勢神宮での記者会見で、政治姿勢を聞かれ、「蒼生安寧(そうせいあんねい)に努める」と答えた。漢字の読みをよく間違えると揶揄(やゆ)される麻生首相の口から、こういう聞きなれない言葉が出てきたことに驚いた向きも多かったのではないか。
「蒼生」というのは国民の意味で、実は麻生首相はかねてこの言葉を使っていた。幕末の水戸学者、藤田東湖が政治理念を説いたときに用いたものという。
麻生首相の政策グループは「為公会(いこうかい)」という。古代中国の経書「礼記」にある「天下為公」(天下をもって公となす)から取ったものだそうで、会の設立趣意書にも「公の重みを取り戻し…蒼生安寧を図る」とある。
つまりは「蒼生安寧」とは、現代風にいえば「国民生活の安定向上」といった意味合いか。民主党が掲げるキャッチフレーズ「国民の生活が第一」と同様の意味だろうが、「蒼生安寧」のほうがなにやらありがたみがにじむ。これが流行語となるかどうか、麻生政権の先行き次第ということだろう。
大荒れ必至の通常国会が開幕した。「予算成立最優先。解散はその後に考える」というのが麻生首相の政権運営の基本だ。衆院再可決が可能になる「参院60日規定」を前提として、衆院段階では強行突破路線を取るだろう。60日間の余裕を持って参院に送付してしまえば、あとは野党がいかに騒ごうと放っておけばいい。自民党から17人以上の造反が出ないかぎり、衆院再可決が可能だ。
民主党は徹底抗戦で早期解散を目指す構えというが、国会空転戦術は世論の反発が怖い。臨時国会に続いて今度も解散に追い込めなかったら、小沢代表の神通力にいよいよ陰りが生じかねない。
ならば、第2次補正も来年度予算も早期成立に協力して、麻生首相に決断を迫る「逆手戦法」を取るか。かつてないほど複雑な神経戦のスタートだ。
(客員編集委員 花岡信昭)