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【外信コラム】北京春秋 封印された歴史

2009.1.5 02:50

 師走の休日の午後。いつも利用している自宅近くの理髪店で、21歳の女性美容師と雑談していたときのこと。河南省滑県の出身という彼女は「私の田舎は何もないところ」と話していた。私はふっと趙紫陽元共産党総書記の出身地であることに思い当たり、「あの趙紫陽さんを生んだ土地ではないか」と言った。

 「えっ、歌手か何かですか」と彼女は戸惑った表情を見せた。

 1980年から87年まで首相を務め、その後、最高指導者に当たる党総書記となり、89年6月の天安門事件で、民主化を求める大学生への武力弾圧に反対したことなどを理由に失脚した偉大な郷里の先輩の名前を、彼女は聞いたことがなかったのだ。

 中国当局が自分たちに都合の悪い歴史を封印することは知っていたが、ここまで効果をあげているとは、さすがに驚いた。

 20年前まで、趙氏は現在の胡錦濤国家主席と同じように、毎日のように新聞とテレビのトップニュースに登場していたが、今はすべてのメディアからその名前はきれいに消されている。2008年末に放映された改革・開放路線30周年を記念する特集番組でも、香港返還交渉をはじめ、趙氏が果たした数々の貢献は、みな別の指導者の手柄として紹介されていた。

 70年前の日中戦争を舞台にした旧日本軍の蛮行を詳しく語ることができる中国の若者たちは、20年前の血に塗られた天安門広場を知らないのが実態だ。

 歴史教育の怖さを改めて感じさせられた。(矢板明夫)

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