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働く:第1部 逆風の中で/2 介護福祉士 /広島

 ◇資格者4割、別の道に

 「今日は満州(旧中国東北部)に行く日よ」と話しかけると、戦前に満州に住んでいたという車いすの女性が「そうねー」と笑った。女性は認知症を患っており、記憶の中に生きている。

 特別養護老人ホーム「慈光園」(安佐南区)で働く介護福祉士の楪正臣(ゆずりはまさたか)さん(26)の頭には利用者の生活歴が刻み込まれている。きょうだいや仕事、趣味、住んできた場所。楪さんは「(認知症が多い)利用者にとって、私は毎日会うけど、毎日知らない人」。だけど、毎日を笑って過ごしてもらえるよう、「あなたのことを知っているから安心して」と言葉に込める。

 朝7時。「おはようございます。朝になったよ」。個室に入り、耳元で呼びかけた。排せつ物の処理を終え、手を洗い、お年寄りのかむ力に応じて、柔らかいご飯やおかゆ、とろみをつけたおかゆと分けた朝食を配った。ポケットで呼び出しのベルが動く。楪さんは大きな背中を丸めて速足で部屋へ向かう。背中が痛い、ラジカセをつけて……。「利用者と話す時はゆっくりかかわりたい。だから他の時は動作が速くなるんです」とはにかんだ。

 午前中は1人で8人をみる。朝食を介助し、部屋を回っていると、隣の部屋でガタッと物が落ちる音。慌ててドアを開けた。ベッドの柵が落ちていた。胸をなで下ろした。

 財団法人・介護労働安定センター(東京都文京区)の調査では、介護労働者(介護職員と訪問介護員)の離職率は年間2割を超える。県の07年度の離職率は25・4%にも上る。

 「何となく」介護の道に入ったが、初めて勤めた病院は時間に沿って排せつ、食事を繰り返す流れ作業のようだった。仕事が味気なく感じたところ、慈光園の友人から勧められ、転職を決めた。

 今の職場でも辞めたいと思うことはある。夜勤は30分おきの見回りとその間に鳴るベルに走る。目を離したすきに入所者が廊下で転んでしまった。「なぜ気付かなかったのか」と自分を責めた。

 そんな時、お年寄りの思いやりが救ってくれた。「ごくろうさん」「さむーない? ご飯食べんの?」。認知症の女性入所者がかけてくれた言葉に「以前は子や孫に言っていたんだろうな」と思った。彼女に残る感情に人間の尊厳を感じた。

 人手不足なので長期休暇は取れない。給料は手取りで約20万円。将来のことを考えると、ケアマネジャーなどの資格を取得して増額を考えることもある。ただ、施設のおばあちゃんらと触れ合っていると忘れてしまう。「僕とおばあちゃんは鏡の関係。僕が楽しいとおばあちゃんも笑い出す」とほほ笑んだ。介護は天職だと思う。【井上梢】

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 ◇データ

 厚生労働省によると、全国での介護福祉士養成施設への入学者数は06年1万9289人▽07年1万6696人▽08年1万1638人(いずれも4月時点)と毎年減少している。養成施設卒業者や国家試験合格者のほぼ合計を示す、県の介護福祉士資格の登録者数は、財団法人社会福祉振興・試験センターによると、07年3月末1万5612人。ただ、厚労省の05年9月末の推計では、登録者の約4割が介護などの業務に就いていない。重労働の割に賃金が高くないためと指摘されている。若者を中心に人材不足は深刻だ。

毎日新聞 2009年1月5日 地方版

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