今年は変化の年−08年回顧と09年の展望(5) 日本病院会・山本修三会長
■本当の意味で病院維持が困難に
―昨年を振り返ってください。
日本病院会の会長になって5年目を迎え、春からは日本病院団体協議会の議長にもなった。ほかにも医療界で幾つかの仕事をやっていたから、個人的には非常に忙しくて混乱した年でした。なぜ混乱なのかというと、昨年だけで語るのは難しいのですが、ベースは2006年の診療報酬のマイナス改定にあると思います。それで病院の利益が落ち込んで、さらに新医師臨床研修制度とか「7対1」問題が重なり、予測できなかったことが次から次に起きました。それが集約されて、病院が本当の意味で経営的にも機能的にも維持困難になった。そんな年だったと思います。どうにかしなければという時期に、政治、経済はガタガタになった上、医療界では死因究明の議論もありました。
―昨年の診療報酬改定では、大規模な病院が比較的優遇され、中小病院にはやや厳しい内容となりました。
確かに大きな病院には少し有利でした。どちらかといえば、DPCをやっている所が良かったと思います。ただ、それは一部の病院だけ。200床くらいの病院も含めて、民間の中小病院は大変でした。ほんのわずかなプラス改定も、どこかに吹き飛んだとみていいのではないでしょうか。
―DPCの議論についてはいかがですか。
きちんとした方向に行っていると思いますよ。議論の中で、時には日本医師会からの反発もあり、十分に理解してもらっていない部分もあります。もう少し議論を詰めて、本来の目的を果たせるようにしたいと考えています。
―診療情報の添付が今月から始まりました。
出来高と一緒に調べても、あまり意味がないと思いますが、少なくとも治療のコストが把握できるようになれば、どうやって早く治そうかとか、病院経営から見てどうすればいいのかとか、そういうことも検討できるようになります。その点は良いと思います。
■事故調の議論はインパクト大
―昨年は「大野事件」の判決もありました。日病協でも「医療事故調査委員会」の議論を行っていますね。
事故調に関しては、いろいろな意味でインパクトがありましたね。以前は、医療界の倫理観というのは大体こういうもので、個人の認識もそれほど変わらないだろうと思っていました。ところが、ミスを犯したときに罪になるのかとか、免責になるのかとか、そこまで議論が広がると、医師の考え方は全く違います。次々といろんな考え方が出てきて、医師というカテゴリーは一体何なのかとも感じました。患者のために再発防止をしたいという点では共通していますが、日病協としての結論はなかなか出ません。ただ、振り返ってみると、意義のある話し合いになったとは思いますが…。
―日病協は昨年12月、「医療・介護提供体制および診療報酬体系のあり方について」と題した提言を厚生労働省に提出しました。加盟11団体が提言をまとめたのは初めてということで、非常に画期的だったと思いますが、その経緯などについてご説明ください。
次回の診療報酬改定まで2年あるので、基本的な考え方を整理しようというのがスタートでした。入院の病床の考え方を特定機能、急性期、地域一般病棟、回復期、慢性期というように整理して、「きちんとした考え方で入院基本料を付けてください」ということです。
基本料が看護師の数主体で決まるのはおかしいと思います。急性期の入院基本料が低過ぎるため、入院基本料とは何かという視点でコストを考えてほしいと提言しました。
しかし、地域一般病棟では少しもめました。慢性期から回復期、急性期の一部まで幅広い医療を行うことで地域に役立っている病院を「地域一般病院」とし、機能的な位置付けを地域一般病棟と名付けたのですが、分かりにくかったようです。幸い、全団体が趣旨には賛同したので、提言ではこの名前を使用しました。
ただ、今回はドクターフィーについて触れていませんし、診療報酬の改定時期などへの意見も盛り込んでいません。それらに関しては、もう少し議論が必要だと思っています。
―次の改定の焦点になる「初・再診料」については、どのように考えていますか。
今回の日病協の考え方では、外来の患者を診察するという点で見れば、診療所と病院は変わらない。それならば、なぜ報酬に差をつけるのでしょうか。病院にはさまざまな機器があり、たくさんの人間がいて、いろいろな検査も行われている。そうなると当然、原価が掛かります。さまざまな疾病を持つ高齢者が増えている現状では、やはり専門医の評価もきちんとするべきです。例えば、初診の患者が内科で診察を受け、さらに眼科へ行っても1人分というのは、やはりおかしいと思います。次の専門医の先生は無料で診ることになりますから。それは初診も再診も同じことではないでしょうか。出来高でやるのなら、そこはきちんと見る必要があると思います。
■「医療界としてこうしよう」という取り組み必要
―今年の展望をお聞かせください。
昨年は「混乱の年」だったと言いましたが、今年はおそらく「変化の年」になると思います。経済界も政界も大変な状況の中で、昔のように「医療界がああしてください、こうしてください」ということをやっても、それに応えてくれる環境はありません。それならば、自分たちがやらなければいけないのではないか。そう思っています。医療界の意見を集約して世の中に発信する。研修制度とか、専門医制度とか、個人が勝手なことを言うのではなくて、「医療界としてこうしよう」という取り組みが必要だと思っています。
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