前橋市内から車で約2時間。草津温泉へ続く長野原町の国道292号沿いを上ると、2階建てのモダンな建物が姿を現す。02年に長野原、嬬恋、草津、六合の4町村が共同出資、へき地医療の支援を目的に設立された県内唯一の病院「西吾妻福祉病院」だ。
同病院には内科や外科、産婦人科に加え内視鏡など専門的な分野を含む11診療科がある。国立病院機構沼田病院と並んで県の「へき地医療拠点病院」に指定され、県内9カ所のへき地診療所のサポートも担っている。
診療所の医師が急用で出掛けた際に、一時的に無医地区となるのを防ぐため同病院の医師が代診に赴く。常勤医12人のほとんどが自治医科大学(栃木県下野市)の卒業生で、総合医の経験は抱負だ。1人体制の診療所の多くが「外出時の急患は手遅れになることもある」と課題に挙げており、身近な拠点病院の存在は大きい。
設立に奔走したのは、かつて診療所で働いた経験を持ち、現在は同病院管理者を務める折茂賢一郎医師(50)だ。自治医大を卒業後、25年前に六合村診療所に赴任。3年の勤務で、住民に溶け込む地域医療の魅力に気付き、93年に診療所と温泉療養を組み合わせた「六合温泉医療センター」を開いた。
「生活は苦しいし、家族の目もある。誰だってへき地は嫌なものだけど、僕は六合に来て目が覚めた」。折茂医師は自治医科大のネットワークも駆使、医師を呼び込んだ。
地域医療に特化した同病院はいま、総合医人気と相まって注目を浴びつつある。県全体が研修医の確保に四苦八苦するなか、6人が集まった。同病院のもう一つの目的である「総合医の育成」も着実に進めている。
県内では中核病院の医師不足が深刻で、へき地診療所に代診を派遣する余力はない。中核病院の弱体化が進めば、へき地の仕事はより過酷なものになる。
折茂医師の現在の目標は、代診に常時3人を出せるようにすることだ。「いま地域が必要としているのは患者の声をじっくりと受け止める総合医。この病院を『へき地の中核病院』にすることが僕の使命です」=つづく
毎日新聞 2009年1月5日 地方版