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総選挙の年が明けた。混迷と停滞が続く政治に、ようやく民意をぶつける機会がやってくる。
引き続き自民、公明両党に政権を委ねるか、民主党中心の政権に交代させるか。「国のかたち」について、有権者の側も真剣に考える年になる。
そんな決戦の年の幕開けとなる通常国会の開会を前に、麻生首相、小沢民主党代表がきのう、来るべき総選挙への決意を語った。
「効果的な経済対策を迅速に打てるのは自民党だ」。首相がそう胸を張れば、小沢氏は「自公政権では危機を克服できない」と切り返す。対決ムードは高まるばかりだ。
だが、この国会の最大の使命は、何と言っても昨年来、急激に深刻化する景気と雇用の危機の中で国民の生活をどう守っていくかにある。
政府が出す2次補正予算案には、中小企業への保証・貸出枠の拡大、09年度当初予算案には財政出動による景気対策や非正規労働者への雇用保険適用などが盛られている。与野党の突っ張り合いで実現が遅れてしまうのは、何としても避けねばならない。
首相が「政局より政策」と言いつつ、対決姿勢を崩さない以上、野党側も簡単には譲れないというのはその通りだろう。2次補正の提出をここまで遅らせたのも、衆院解散に追い込まれるのを恐れる首相や与党の、政局への思惑あってのことではなかったか。
一方で、3月の年度末に向けて、企業の資金繰りはますます厳しくなる。それに間に合わせるのは与野党共通の責任だ。野党の側も、単に政府与党の足を引っ張るだけでは済まされない。
その責任を果たすために、与野党に提案したい。予算の成立が遅れていちばん困るのは国民なのだから、早期成立を最優先に譲り合うことだ。
まず首相は、野党がこぞって反対する定額給付金を2次補正から除く。引き換えに、民主党など野党はそれ以外の2次補正を速やかに受け入れる。
当初予算についても、同じように双方の歩み寄りが必要だ。そのためには、首相が予算や関連法案の成立後ただちに衆院を解散すると約束することが欠かせまい。
だが、首相はきのうの記者会見で、野党との「話し合い解散」の可能性を明確に否定した。60日ルールによる衆院の再議決で押し通す構えのようだが、それでは混迷は長引く。対決一辺倒では政治の無責任というほかない。
首相には解散を口にした途端、与党内の求心力が失われ、政権が失速する恐怖があるのかもしれない。しかし、いまの政治の機能不全は、2年前の参院選での惨敗以後、3代の自民党政権が総選挙の洗礼を先延ばししてきたことに起因する。政治のリセットから逃げ続けることはもう許されない。
大阪府に住むAさん(68)が両親を亡くしたあと、アルコール依存症で入院するまで5年もかからなかった。
長年勤めた会社を定年退職し、同居の両親を相次いで見送った。2人の子どもは成人している。退屈しのぎに昼間もつい酒に手が伸びた。
みるみる酒量が増えた。気がつくと駅前で寝ていたり、商店街で倒れていたり。妻がかかりつけ医に相談し、アルコール依存症と診断された。
入院治療で酒は断ったはずなのに、退院後に「少しくらいなら」と、また酒を口にし、1カ月ほどで元の状態に戻ってしまった。再び入院して治療し、現在は断酒会に参加している。
アルコール依存症になる高齢者が増えている。厚生労働省の調査によると、アルコール依存症の患者は推計で約80万人いる。なかでも70歳代は同世代人口の3%を占めると見られ、割合では世代別のトップだ。全日本断酒連盟に入会する人も年々、高齢化している。01年度に41%だった60歳以上の会員が、07年度には51%に達している。
ここ数年で目立つのは、定年後の数年で急速に依存症が進行する例だ。
「まじめに働いて定年を迎えた人が、定年後の生活設計を描けず、知らず知らずお酒にすがっている」。長年にわたってアルコール依存症の治療にあたってきた大阪府和泉市の新生会病院名誉院長、和気隆三さんは話す。
依存症患者の増加は施設や在宅介護の現場にも深刻な影を落としている。
飲酒のせいで食欲がわかず、ホームヘルパーの作った食事を食べようとしない。アルコール依存症が栄養失調や記憶障害、うつ病など、二次的な健康被害を引き起こしている。転倒して骨折する危険性も高い。
ヘルパーにお酒を買ってくるよう強要してトラブルになるケースも発生している。関西アルコール関連問題学会がケアマネジャーとホームヘルパーら500人あまりを対象に調査したところ、8割がサービス利用者の飲酒問題にぶつかり、3割がサービスの提供が困難になったと答えている。
アルコール依存症は、お酒の量を自分ではコントロールできない病気である。「酒好き」や「大酒飲み」と放っておいてはいけない。きちんと治療を受けてお酒を断てば、十分に回復できる。なかでも高齢者は回復率が高い。
ふだん高齢者と接しているヘルパーたちには、アルコール依存症について認識を深める研修が必要だ。
また、介護を担う職員と地域の開業医、保健所、依存症専門病院などが連携して高齢者を支えるネットワークを日頃から築いておくと心強い。
残された、かけがえのない日々。依存症を克服し、ひとりでも多くの高齢者が、ほんとうの自分を生きられるよう応援したい。