再掲：箱根駅伝を考える（１）関東の大学に限定

【PJ　2007年01月02日】− 毎年このシーズンになると箱根駅伝がぼちぼち気になる季節である。私は関西在住なのだが、関東のコース沿道の人なら恒例行事として楽しみにされている人も多いだろう。スポーツ誌は箱根の特集記事や特別号を出し、今年はこの時期にあわせて箱根駅伝を舞台にしたサスペンス「強奪　箱根駅伝」が文庫化され地図出版の大手・昭文社が箱根駅伝の観戦マップを出版する盛り上がりぶりである。

箱根駅伝は関東の大学駅伝　
　箱根駅伝の正式名称は「東京箱根間往復大学駅伝競走 」で関東の大学地域駅伝で日本一を決める大会ではない。ただ一般の人は大学駅伝日本一決定戦だと思い込んでいる人は多い。関東ではなく東北地方になる福島の大学の陸上部の監督は知人に「おたくの部はいつになったら箱根駅伝に出られるのですか？」と何度も聞かれ返事に困ったことがあるのを聞いたことがある。数年前からスポーツ誌の投書欄で「箱根を駅伝大学日本一決定戦に」といった投書が掲載されるようになったが、今のところ議論にもなっていない。主催の関東学生陸上競技連盟もそんなことは毛頭ないようだ。では、なぜそのような過剰な盛り上がりになったのだろうか？

87年のテレビ中継がターニングポイントに　
　それまで、箱根駅伝を茶の間で楽しもうと思えばテレビは夜７時のＮＨＫニュース、もしくは10時ごろから放送が始まるラジオしかなかった。そこで、日本テレビは87年箱根駅伝の往路復路の完全中継に踏み切るという大英断を下した。多くのファンからの要望があったことは言うまでもないが、91年に実質的に主催を計画していた東京世界陸上のための中継技術の世界へのアピールと社内の意思統一という狙いもあったという。

　視聴率は最高で21％だったが、これは野球の巨人阪神戦なみの数字なのだ。そして、その時初出場でセンセーショナルといっていい注目を浴びたチームがあった。山梨学院大学である。当時、山梨学院は創部２年目で、部員は１−２年生しかいないものの”プリリシアンブルー”と呼ばれるカラーのテレビ写りを意識したかのようなユニホームにCIロゴで書かれた学校名、そして初のケニヤからの留学生といったことが話題となり順位は15位に終わったものの優勝校なみの注目を浴びていた。

そもそも箱根駅伝とは
　箱根駅伝はストックホルムで日本初のマラソン代表となった金栗四三の発案で、1920年に「四大校駅伝競走」として第一回大会が始まった。コースは現在とあまり変わらないが当時は正月開催ではなく１月中旬に授業を終えた午後から行われていたという。大会の目的は長距離種目の強化にあった。

　というものの、夏のトラックシーズンが終わると冬は走りこみを中心とした練習となるが、どうしても単調になり面白みもなくなる。そこに目標となるレースを作って選手に刺激をというコンセプトで、あくまで練習の一環だったのである。 信じられないかもしれないが1980年代まで選手、指導者共はそういった考えだった。ではなぜ関東の大学が「箱根至上主義」に走ったのだろうか

遠因は全日本大学駅伝の形骸化？　
　11月はじめに、駅伝大学日本一を決める全日本大学駅伝が、愛知の熱田神宮から三重の伊勢神宮のコースで行われているが意外と知られていない。実はこの駅伝、昔は１月末に行われていたのだが、この時期は多くの大学が後期試験と重なってしまうという問題があった。そのため教員養成系の大学中心に出場辞退校が毎年数校あり、真の日本一決定にならないという問題を抱えていた。そこで大会を86年に11月はじめに開催時期を改め、やっと日本一を決定できるようになったまではよかった。

　だが一部のファンには疑問点が残った。というのも、11月ごろに関西や九州の各地域の大学駅伝が全日本の予選を兼ねて行われ、その上位校が日本一を賭けて戦うといった図式が崩れることを意味したのだ。同時に、関東の学校にしたら全長約100キロで選手８人、１人の受け持ちが９キロから19キロといった全日本より、全員の受け持ちが20キロを超え選手10人の箱根のほうがより高いモチベーションを要求される。

　この頃から関東の大学が全日本大学駅伝を、箱根のための”調整レース”となってしまったといっていい。このため、11月はじめに開催時期を改めた最初の大会では京都産業大学が優勝したが、それ以来関東以外の学校は優勝していないが理由をあとで述べる。【つづく】

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パブリック・ジャーナリスト　鈴木 義哉【 兵庫県 】
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