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記事2003年06月23日1893号(8面)

武蔵野大学における 教育とキャンパスホットスポットの活用

自由度高い教育・研究活動支援

 

 

武蔵野大学学長
齋藤 諦淳氏



総務部長
山田 英昭氏


 新しい世紀を迎えて大学改革や教育の情報化が加速している。堅実な教育で知られる武蔵野大学では公衆無線LANサービス「ホットスポット」のアクセスポイントとインターネット上の交流ツール「cocoa」を導入し、教育・研究への利用のみならず、学生サービスなどに幅広く活用しており、インターネットを一人ひとりが使いこなす「個電」の世界を体現するものとして注目されている。本紙では本年度からの名称変更、新学部の設置など大学改革への積極的な取り組みを行っている同大学に「ホットスポット」と「cocoa」導入の経緯を伺った。



【 建学の精神と大学改革 】
教育の情報化は大切
コミュニケーション重視のIT環境を
武蔵野大学学長 齋藤 諦淳氏


 本学は大正十三年、首都・東京に仏教精神に基づく女子教育の拠点を作りたいということで創立され、まもなく八十周年を迎えます。創設当初の高等女学校から昭和二十五年に家政科と文科系の学科を備えた短期大学となり、昭和四十年には武蔵野女子大学として文学部を設けました。
 本学の教育の特色は仏教の考え方を基本とした豊かな教養と社会で活躍できる能力を兼ね備えた人物を育成することです。世の中の進展に応じて、昭和五十年代からは学部の改組に取り組み、人間関係学科や現代社会学部を設け、社会の要請に応える実践的な教育を目指してきました。平成十一年には大学院を男女共学とし、十四年度には共学の通信教育部を開設したこともあり、本年度より名称を武蔵野大学と改めました。一方、本学創設時から理科系の学部も設けたいと考えていましたが、ようやく来年度から薬学部も発足することになりました。
 近年は教育環境としてIT関連の整備、eラーニングの推進等に力を入れてきました。教育の情報化ということがよく言われますが、情報化できるものは極限まで情報化することが大事であり、その上で直接的な人間的関係やコミュニケーションがより大切になってきます。大学教育ではそこが重要だと考えています。情報化に「情」(なさけ)が欠けていてはいけません。
 現在、ネットワーク社会は急速に進展していますが、これからは有線ネットワークによる情報交換のみならず、より自由度の高い無線によるネットワークが進展し、いわゆるユビキタスの時代がすぐやってくると思います。本学でもこうした流れを踏まえて公衆無線LANサービスである「ホットスポット」を導入したわけです。

【 「ホットスポット」導入の目的と背景 】
有線に匹敵する性能「ホットスポット」 学内の6か所に設置
総務部長 山田 英昭氏


 本学では学園全体の情報環境整備としてキャンパス内にあるコンビニに隣接した学生ホールに無線LAN環境を設け、学生に対する情報サービスを提供しようというプランを検討していました。また、このプランとは別個に、新入生を対象にノートパソコン購入に際して、学校側が一人当たり四万円の補助を出す計画も動いていました。
 パソコン購入への補助は平成十年から始まっていて、情報化教育のために積極的に自宅でも使えるノートパソコンを学生に斡旋(あつせん)してきました。学校側では、毎年メーカーと機種を決めて、統一した管理ができるようにしていますが、十五年度の機種選考の結果、公衆無線LAN対応のカードを装備した機種(東芝製)が選定され、その後NTTコミュニケーションズより同社の公衆無線LANサービスである「ホットスポット」の提案がありました。
 本学としては「ホットスポット」のコストパフォーマンスに対して高い評価を与えていて、このサービスを導入することで、学生自身のパソコン利用環境が飛躍的に向上すると考えています。「ホットスポット」は通信速度が最大11Mbps(IEEE802.11b)という有線ブロードバンドに匹敵する性能を有するうえ、街中のカフェ、ホテルやファーストフード店、コンビニなどにもアクセスポイントがあるので学内だけでなく、通学時や自宅周辺でも公衆無線LANを使えることも魅力でした。
 「ホットスポット」のアクセスポイントは学生ホール、大学の食堂、クラブの部室等学内の六か所に設置を予定していて現在四か所が稼働しています。
 これまでに本学が提供している情報サービスは、学生全員に電子メールアドレスを配布するとともに、自宅のインターネット環境に対して学校側が使用料を支払っているというものです。ですので、学生が自分でプロバイダーに加入しなくてもインターネットを利用できます。ただ、これまでの接続環境では自前の電話を持っていない学生はインターネットを利用することができません。今回導入した「ホットスポット」はこのような情報環境にある学生でもインターネットが利用可能となり、大学が学生に提供できるサービスは飛躍的に向上するでしょう。本学ではワイヤレスでインターネットに接続できる公衆無線LANサービス「ホットスポット」とデータ預かりサービスである「cocoa」(別項参照)がセットになっている「OPENプラン」というサービスに契約しています。

ゼミ、サークルの情報交換
履修登録や休講連絡に利用も


 機動性に富む「ホットスポット」とインターネット上の交流ツールとして優れた機能をもつ「cocoa」との組み合わせは、教育・研究面における活用と学生生活上のサービスの両方において展開が可能であると考えています。今後はゼミやサークルでの情報交換だけでなく、履修登録や休講連絡なども「ホットスポット」と「cocoa」を利用してやっていきたいと思います。
 またインターネットを利用したフィールドワークや教室以外のフリースペースを使った授業など、これまでは想定しなかったような授業展開にも利用できると考えています。将来的にはインターネット上に先生方のコンテンツを乗せて、学生が自由にアクセスしていくシステムも展開していきたいと思います。
 こうした授業に対応するためにも学生全員がノートパソコンを持っていれば、プラスになることが多いと思います。
 現状ではキャンパス内に情報コンセントがあちこちにないこともあってノートパソコンの利用に限界がありましたが「ホットスポット」の設置によって解消され、より自由で創造性豊かな利用が期待されます。
 「ホットスポット」の導入に当たっては、学習相談室とNTTコミュニケーションズのスタッフが連携して学生へのガイダンスを実施し、利用方法の説明からパソコンの設定サポートまで行っています。また、今年度については「ホットスポット」および「cocoa」のセット(=「OPENプラン」)利用料金(月額一六〇〇円/一契約あたり)も大学が持つことにしています。なお、次年度については、継続するかどうかは学生本人が決めることにしています。

【 「ホットスポット」を利用した教育・研究活動 】
学生の主体的参加を促進
学外の専門家と提携、教室外の授業
人間関係学部専任講師 村松 陸雄氏


「ホットスポット」を利用した教育・研究活動
 本学では三か年をかけて地域社会と連携するプロジェクトを立ち上げていますが、私は武蔵野市のグリーンパーク商店街と提携して商店街を活性化する研究を担当しています。
 活動内容としては若い学生が実際に商店街に入り込んで、商店街の人たちと一緒に活性化のアイデアを考えていこうというものです。
 このような場合、学内にある「ホットスポット」に加え、商店街にある「ホットスポット」を活用することにより、現場でのフィールドワークや授業も可能になります。
 また、商店街の側のスタッフから発信されるさまざまな情報を「cocoa」にアップしておけば、時間に制約されずにプロジェクトを進めることもできます。
 これまで大学の授業は教室でやるものとの考えがありましたが、「ホットスポット」を利用することによって教室という空間的な制約を離れた授業展開も可能となります。また、「cocoa」の「ダイアリー機能」や「ファイル機能」「フォト機能」などを活用することによって時間的な制約からもかなり自由になります。
 例えば、環境学という分野はもともと学外の専門家やNGOのスタッフなどに優れた人材がいるという特性がありますが、民間の団体や企業に所属する専門家との共同作業を行う場合は大学側の都合(場所や時間)で設定することは難しいという問題があります。このような場合に「ホットスポット」と「cocoa」を活用することにより問題を解決することができるわけです。
 具体的な研究活動の分野への応用では、アクセスエリアの広い「ホットスポット」の特性を生かして、オープンな環境での研究活動、例えばレストランなどの公共的な場所で、あるグループに所属する構成員がどのような位置取りをするのかなどの行動様式をリアルタイムに記録し、スタッフ相互でデータの交換をしながら研究活動を行う(着席行動の研究)などが考えられます。

「ホットスポット」の特性生かし
オープンな環境での活動


 また、教員個人のホームページを通じて課題を与えたり、レポートを受け付けるような活動、学習指導、ゼミなどのグループでのコラボレーションも「cocoa」の機能を使うことによって可能となります。特にゼミなどの活動ではなるべくリラックスした環境を用意して闊達(かったつ)な意見交換を促したり、迅速な資料提示による議論の深化を図ることが重要ですが、「ホットスポット」を利用して教室などの閉鎖空間以外のスペースでゼミ活動を行いながら「cocoa」に接続して、あらかじめアップしておいた資料を参照したり、新たな資料を提示したりするような、より深化した活動も可能となるでしょう。
 これからの大学教育では、従来のように教員の講義を聴いて、ノートを取るだけではなく、学生が主体的に参加することが重要ですが、その方法としてITを活用することにより、時間や場所に制約を受けることなくコミュニケーションが取れるようになり、学生同士、学生と教員との関係が活性化するとともに学外の専門家と共同で行う授業や研究も促進されることでしょう。
 本学は以前からITを利用した授業には先進的に取り組んでいて通信教育部ではいわゆるeラーニングを全面的に採用し、ウェブだけで授業から単位認定試験まで行うシステムで運用されています。通信教育部の人間関係学科の心理学の授業では実験が必須(ひっす)となるので、従来、通信での授業は無理だといわれていました。しかし、インターネット技術の進歩によって高速な通信が可能となり、動画配信技術を使ってウェブ上で実験を行うことも可能になっています。これまではこれらの授業や認定試験なども有線のインターネット経由で行われていましたので、自宅など固定した場所で受講する必要がありましたが、最大11Mbpsという高速なブロードバンドインターネットを利用できる「ホットスポット」の導入により、街中にあるアクセスポイントを利用することも可能となります。私自身の研究の面からも「ホットスポット」の導入とその活用は環境心理学における新たなテーマとなりうると考えています。「ホットスポット」が実現する「バーチャルな場面における人間行動」と「実空間における人間行動」の比較はそれ自体が興味深い研究テーマです。


【 「ホットスポット」と「cocoa」 】
最大36Mbpsで接続
個人の文書、画像をストック


「ホットスポット」
 「ホットスポット」はNTTコミュニケーションズ株式会社が提供する公衆無線LANサービスであり、基地局であるアクセスポイントとパソコン・PDA等端末のクライアントアダプターを組み合わせて使用する。
 現在の規格は米国の団体が認定している世界的な規格であるlEEE80
2.11bと802.11aに合致したもので、11b対応の端末では最大11Mbps、11aでは最大36Mbpsという高速での接続が可能となっている。
 「ホットスポット」のサービスエリアは日本全国のカフェ、ホテル、ファーストフード、オフィスビルの共用空間、公共施設、コンビニなど約五百か所以上。このほかに別途有料のローミングサービスを利用することで、ホットスポットが提携するパートナーのアクセスポイントを海外でも使用でき、世界中の空港やホテルなど約千か所でサービスを利用できる。
 使用できる端末はパソコン、PDAを問わず、OSも選ばないのでlEEE802.11a及び11bに対応した機器であればどのような機種でも使用できる。
 サービス料金は月額一六〇〇円で使い放題。そのほかにプロバイダー契約や通信費は一切不要なサービスである。
 使い方は簡単で、入会後普段利用しているパソコンやPDAに簡単な設定を行う。あとはお好みのアクセスポイントでインターネットのブラウザを立ち上げてID・パスワードを入力するだけ。快適なブロードバンド・インターネットを利用することができる。
 また、無線LANはデータが無線によって送受信されるのでセキュリティが重要になると言われているが、「ホットスポット」はESS−IDとWEPという機能によってセキュリティを確保している。ESS−IDは所属する無線LANのグループを指定する設定。有線の場合は通信先とはケーブルにより物理的につながっているので、接続先の決定はたやすいが、無線の場合はそのような物理的処理ができない。そこでアクセスポイントと対象PCのそれぞれに同一のIDを設定してグループをつくり、同じIDのもの同士でないと通信できないような仕組みをつくるもの。
 WEPは無線LANを暗号化する際の設定で、「有線と同等の保護」という意味。WEPに設定されたデータはRC4という技術で暗号化されるため、他人が傍受しても容易には解読できない。そのほかにもログイン時にSSLという認証技術でID、パスワードのセキュリティを確保している。

「cocoa」
 「cocoa」はNTTコミュニケーションズ株式会社が提供するデータ預かりサービスで「個のコア(核)」という意味から発し、COmfortab
leCOmmunications for Allを略したもの。インターネット上に個人のデータ(文書、画像など)を保存・整理しておくスペースを持つことができる。
 容量はlOOMBでパソコン、携帯電話、PDAからアクセスして書き込み、閲覧、整理などができる。また、グループとして情報を共有することもできるので、コミュニケーションツールとしての使用価値が高い。
 主な機能として「ダイアリー機能」「スケジュール機能」「ファイル機能」「フォト機能」がある。
 キャンパスでの活用例としては、ゼミやサークルの掲示板として「スケジュール機能」を使い、課題のテーマや提出期限などをアップして仲間が閲覧・確認、対応を連絡し合うなど。
 「ファイル機能」では各学生の個人レポートを受け付け、保管したり、カテゴリー別に整理したり検索したりなど。
 「フォト機能」では合宿や会合のシーンをデジカメで撮影、共有アルバムにアップしてメンバーに告知、利用するなど。その他、就職活動のスケジュール管理や就職部からのお知らせ確認などにも利用できる。
 「cocoa」の利用料金は月額三〇〇円だが、「ホットスポット」とセットになった「OPENプラン」契約の場合は両方のサービスが利用できて月額一六〇〇円となる。
◇問い合わせ先
 「HOTSPOT」
0120−815244(午前十時〜午後六時:土日祝日除く)www.hotspot.ne.jp/
 「cocoa」
0120−506506(午前九時〜午後九時)www.coden.ntt.com/


IT関連の整備、eラーニングの推進に力を入れる
武蔵野大学


アクセスポイントがある学生ホール


(クリックすると拡大図を見ることができます)


7号館前のオープンスペースで授業も


「ホットスポット」のアクセスポイント


(クリックすると拡大図を見ることができます)


「cocoa」のスケジュール機能の画面。
ほかにダイヤリー、ファイル、フォトなどの機能がある
(クリックすると拡大図を見ることができます)


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