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社説:海賊に自衛隊派遣 国会審議経た新法対応が筋だ

 麻生太郎首相がソマリア沖の海賊対策で、浜田靖一防衛相に自衛隊派遣の検討を指示した。首相は、新法制定を目指しつつ、それまでの「つなぎ」として、自衛隊法82条の「海上警備行動」発令による海上自衛隊派遣という「2段階対応」を考えているようだ。

 国際海事局によると、今年のソマリア沖の海賊被害は昨年の2倍以上の約100件に上り、東南アジアを抜いて最多発地域になった。多くが身代金目的行為で、日本企業や日本人の被害も4件ある。

 ソマリア沖やアデン湾は世界貿易の大ルートだ。ここを航行する船舶は年間約2万隻を数え、約1割が日本関係の船舶である。輸入大国・日本にとって海上輸送の安全確保は極めて重要であり、海賊対策は国益にかなう。国連安保理も、6月と10月、ソマリア沖への海軍派遣を各国に求める決議を、今月にはソマリアの領土・領空での海賊制圧を認める決議を採択した。

 自衛隊派遣も、海賊対策の有効な方策の一つであろう。政府・与党は、海賊対策で自衛隊を海外派遣する恒久法、ソマリア沖に限って派遣する特措法、海警行動による海自の護衛艦派遣--の三つを検討中だ。

 自衛隊の海外派遣は、武器使用基準など十分な国会審議を尽くしたうえで、新たな法律で対応すべきである。これを先送りし、当面、海警行動で乗り切ろうとする手法には問題もあり、慎重な検討が求められる。

 海警行動は、99年の北朝鮮不審船事件と04年の中国原子力潜水艦領海侵犯事件で発動されたことがある。今回、発動されれば海警行動による初の自衛隊海外派遣となる。「海の治安出動」と言われる海警行動は本来、日本の周辺海域を想定したものであり、与党内にもソマリア沖への派遣を疑問視する声がある。また、外国商船を護衛することもできない。海自には海賊を逮捕するノウハウもない。武器使用基準や、逮捕した海賊の身柄の取り扱いも今後の検討課題である。

 首相が海警行動で派遣を急ぐのは、総選挙を控えて与野党の対立が激化し、新法の成立が見通せない事情に加え、今月の中国の海軍艦艇派遣で「乗り遅れるな」という焦りがあるのだろう。しかし、泥縄的な対応との印象は免れない。

 海賊対策は軍事ばかりではない。日本は、東南アジアの海賊対策で「アジア海賊対策地域協力協定」策定を主導し、マラッカ海峡周辺国に海上保安庁の巡視船を提供するなどして海賊封じ込めに成功した実績がある。こうした経験を生かすべきである。

 また、ソマリア沖の海賊多発の背景には、内戦の激化で無政府状態が続くソマリアの国内事情がある。根本的な解決には、統治能力を持った政権の樹立が必要であり、そのための国際的支援活動が必須であることを忘れてはならない。

毎日新聞 2008年12月27日 東京朝刊

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