舞台の幕が開く。通行人が行き交い、茶店の主人が、さりげなく掃除などをしている。本筋とは何の関係もない光景が、束の間展開する。これを歌舞伎などで「ちり落とし」と言うそうだ この後に主人公が現れる。短い幕開けにもメリハリがつく。西洋劇にはプロローグといって全体の筋を暗示させる前置きの場面があるが「ちり落とし」はそれとも違う。無駄に見えて無駄ではない、日本ならではの時間の使い方だ 正月三が日、ごろごろと何をするわけでもなく過ごした。「ちり落とし」のようなものだろう。いっけん無駄な「ちり落とし」にも、それなりの効用があるように、正月という時間の効用は、心の切り換えにうまくできている 「ちり落とし」の効用を教えてくれたのは、ことしから本紙連載エッセーに登場する作家の村松友視さんだった。小説家だから「ちり落とし」と思わせて、さりげなく登場させた人物が後で重要な役割を果たす話もある 事件、事故もあった2009年の幕開け。舞台はこの後急展開するに違いない。今のうちにゆっくりしておかないと体がもたない人もいよう。
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