日本の選択点
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【社会】<日本の選択点>高齢化マンション 『住の人権』どう規定2009年1月4日 07時22分 東京郊外のベッドタウン・府中市にある日鋼団地。築四十二年たつ。三十二棟で総戸数は七百二戸で、マンション草創期に、日本住宅公団(現都市再生機構)が供給したマンモス団地だ。 ここでは建て替え計画が進む。計画は一九九二年に始まり、十八年目に突入した。 一戸建てなら家族だけで決められるが、マンションの場合は単純ではない。区分所有法では、所有者の数と、所有面積に応じて割り振られる議決権のそれぞれ五分の四以上の賛成で「建て替え決議」を行うことが義務づけられているのだ。さらに日鋼団地のような複数棟では全体の「五分の四」をクリアし、さらに各棟ごとに「三分の二」以上が賛成しなければならない。 計画では、高層化によって戸数を増やし余剰分を販売することで住民の負担を減らす方針だが、それでも平均千数百万円かかる。「割安」と考える人もいるが「今のままで十分」と思う人もいる。ここに住む藤原悟一さん(85)=仮名=も、その中の一人。「全戸の利益を考えるべきだ。住は人権だ」という。仮に「五分の四」をクリアしても、少数を切り捨てるのは納得できない。 建て替えのメリットも当然ある。老朽化マンションは耐震構造上問題が多い。大地震が襲ったとき、被害を最小限に抑えるために建て替えは有効手段だ。 老朽化マンションは、入居者の減少や高齢化という問題も抱える。政策研究大学院大の福井秀夫教授は「今のままではスラム化したマンションがどんどん増える」と指摘する。 国土交通省によると、築三十年以上のマンションは二〇〇八年末現在で七十三万戸。一九年末には二百万戸に膨らむ。しかし、建て替えが実現した例は、震災など不可避の事情を除けば、わずか百二十九件。その一例、東京都新宿区の諏訪町住宅は、六十戸と小規模だったため比較的スムーズだったが、それでも検討開始から建て替えまで十年以上かかった。 急速に進むマンションの「高齢化」。建て替え問題は、待ったなしで日本の大問題になる。福井氏は「人数要件は撤廃して、面積のみの二分の一以上にするのがベストだ」と要件緩和を求める。政府の規制改革会議も昨年末の答申で、要件緩和の必要性を訴えた。 要件を緩和するか否か。都市政策や防災の観点を重視して建て替えを進めれば、少数意見は無視されてしまう。逆に少数意見を尊重しすぎれば、多数意見を切り捨てることへの異論もあるだろう。 単に住居の問題にとどまらず「公共の福祉を重視するか個人の権利を尊重するか」という憲法論争に行き着く選択点だ。 新年企画ホームページアドレス:http://www.tokyo-np.co.jp/feature/09newyear/ (東京新聞)
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