ストレスとは、もともとは物質に反応を起こさせるさまざまな刺激のことで、物理学の用語でした。最近では医学用語として用いられるようになり、温度や騒音といった環境、引越し、身内の不幸、離婚などの刺激から身を守ろうとするときに働く体のメカニズムのことをそう呼ぶようになっています。
私たちの体は、ストレスになるような刺激によって、さまざまな反応が起こってきますが、最近の研究から、自律神経系(自律神経によって体の機能を整えるシステム)と内分泌系(ホルモンによって体の機能を整えるシステム)が、中心的な役目を持っていることが分かってきました。
この他にも、免疫系のメカニズムも関与しており、ストレスと感染症の発症も関係があるようです。
しかし、こうした自律神経系や内分泌系のメカニズムも、長期にわたってストレスを受けるとそれに耐えられなくなり、うまく機能しなくなって、体や心の健康を損なうようになります。それが神経症やうつ病、心身症と呼ばれる心の病気です。
神経症 | ノイローゼと呼ばれる状態で、不安感や恐怖感をうまく処理できないことで、心に障害が出てしまう病気。不安神経症、恐怖症、強迫神経症などがある。 |
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うつ病 | ストレスによって生じる心の病気。典型的な症状は、うつ状態、不安感、不眠など。 |
心身症 | ストレスによって生じる体の病気。代表的なものに胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、緊張性頭痛、月経困難症、インポテンツ、円形脱毛症、耳鳴り、顎関節症などがある。 |
依存症 | アルコールや薬物、ギャンブル、買い物などにのめり込んでしまい、行動が止められなくなってしまう状態。 |
摂食障害 | まったく食べられなくなる「拒食症」と、食べ過ぎる、あるいは食べては吐くという行動を繰り返す「過食症」がある。 |
ストレスによって生じた病気には、薬やカウンセリングなどを用いて治療をしていきます。
薬物療法では、主に抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入薬などが使われます。かつては副作用や依存性が問題になっていましたが、最近では効果が高く、副作用などの問題も少ない薬が出ています。一方、心理療法では、カウンセリングや認知行動療法(認識を見直すことで症状を抑える)などによってストレスへの抵抗力を高めたり、ストレスに対するとらえ方を変えていったりします。
漢方では、「気・血・水(き・けつ・すい)」という考え方があり、このうち体を巡る生命エネルギーである「気」が心(精神)と深く関わっているとされています。ストレスがかかると、この気がうまく巡らなかったり(気うつ)、不足したり(気虚)、気が頭の方に上ってしまったり(気逆)するため、心と体にさまざまな支障が出てくるというわけです。そこで、ストレスによって起こった心と体の不調には、気を補ったり、巡らしたりする漢方薬を使って、気の状態を整えていきます。
実証 | 三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)・黄連解毒湯(おうれんげどくとう)・四逆散(しぎゃくさん)・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)・桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)など |
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虚証 | 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)・黄連湯(おうれんとう)・柴朴湯(さいぼくとう)・柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)・抑肝散(よくかんさん)・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)・加味逍遙散(かみしょうようさん)・白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)・桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)・桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)・小建中湯(しょうけんちゅうとう)・八味地黄丸(はちみじおうがん)・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)・茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)など |
※実証・虚証に関しては、漢方を知ろうをご覧ください。
漢方の効果については最近の研究から、漢方は月経困難症や、過敏性腸症候群などの心身症に有効という研究もあり、西洋薬ではあまり効果が見られにくい、軽症の拒食症や過食症の改善に漢方薬が良いという報告も出ています。
このほか直接的にストレスの症状を緩和するだけでなく、西洋薬の副作用(眠気、吐き気、動悸、口の渇きなど)を軽減するために漢方薬が用いられることもあります。
漢方の診察では、独特の「四診」と呼ばれる方法がとられます。一見、ご自身の症状とはあまり関係ないように思われることを問診で尋ねたり、お腹や舌、脈を診たりすることがありますが、これもストレスがどこに影響を及ぼしているかを探るために必要な診察です。
また、漢方治療だけに頼らず、趣味や運動、相談相手を作るなどストレスを解消する方法を見つけて実践したり、物事を深く考えずストレスをうまくやりすごしたりするなど、ストレス対策を取ることも大切です。
*すべての医師がこの診療方法を行うとは限りません。一般的な診療だけで終える場合もあります。
【監修医師 西田愼二】