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社説 危機と政府(3)バラマキ政策はやめ、地域資源生かせ(1/4)

 世界的な金融危機が日本の実体経済に波及し、地域経済はかつてない厳しい局面を迎えている。全国各地で雇用調整の動きが広がり、工場建設を延期する企業も相次ぐ。地方のこれ以上の衰退を防ぐためには政府の支援が不可欠だが、時計の針を戻すような政策は望ましくない。

 国内景気は昨秋以降急速に悪化したが、日銀の企業短期経済観測調査(短観)の業況判断指数が昨年9月、同12月と2期続けて小幅ながら改善した地域がある。沖縄県だ。

過剰な関与は禁物 

 理由は3点ある。まず、製造業や輸出企業が少ない構造が結果的に世界的な経済変調の影響を軽微にとどめている。一方で、県経済の主力である観光が健闘している。最後にIT(情報技術)関連企業の立地が進み、新たな雇用の場になっている。沖縄へのIT関連企業の進出数はこの10年間で180社に上り、1万5000人の雇用を生み出した。

 本土復帰後続いてきた政府の手厚い支援策が2011年度にも切れる。それまでに観光に続く柱をつくろうと照準を定めたのがIT分野だ。当初はコールセンターなどが中心だったが、最近ではシステム開発やコンテンツ制作会社の立地も増えている。ソニーの子会社のように全国に分散していた輸出入の管理業務などを沖縄に集約した企業もある。

 通信コストの7割程度を助成する県の支援策や若年層の労働力が豊富な点が企業進出を後押しする。大規模な地震が少ないうえ、東京から遠く、同時被災の可能性がないために政府機関もデータのバックアップ機能を沖縄に続々と移している。

 沖縄は香港、台湾と国際海底ケーブルでつながっている。ネット接続会社の国際的な相互中継地は東京に集中しているが、県はこれを沖縄に誘致する構想も進めている。

 一方、政府が02年に沖縄県名護市に設けた金融特区は6年たっても認定企業が1社にとどまっている。法人税の優遇措置はあるが、適用条件が厳しく、効果を上げていない。名護市は繰り返し条件の緩和を求めているが、政府の腰は重い。

 地域経済の崩壊を避けるためには、政府が中小企業の資金繰りを支援し、雇用不安を和らげる対策を大胆に打ち出す必要がある。ただし、政府の地域政策は画一的で柔軟性に欠けるだけに過剰な関与は禁物だ。

 政府の地方分権改革推進委員会によると、中央官庁が法令で自治体に義務づけている過剰な規制は4000項目を超す。画一的な基準を見直せば福祉や環境など様々な分野で新産業が生まれる可能性が広がる。

 地域資源をうまく使えば地方の中山間地でも活性化できる。愛媛県内子町の農産物直売所「内子フレッシュパークからり」は年間70万人の顧客を集める。同町の農家の2割近い約430人が新鮮な野菜や果物などを出荷し、年間1000万円を売り上げる農家もある。レストランや完熟トマトの加工施設も備え、観光面でも地域に貢献している。

 町が設立した運営会社には600人を超す住民も出資している。赤字が多い第3セクターのなかで黒字経営を続け、株主配当も実施している。高齢者や女性のやる気を引き出すコミュニティービジネスである。

 地方が苦しいからといって官需への依存度を高めるような補助金のばらまきは中長期的には逆効果だろう。1990年代の景気対策をみても、利用が少ない市民会館など公共事業の大盤振る舞いは一時的な需要を生んだが、地域の足腰をむしろ弱めた。苦境に陥る建設業でも新潟県の頸城建設のように農業への多角化で成果を上げる業者が出てきた。

民間の知恵使う制度を 

 一方で、政府には民間の知恵を地域再生に生かす仕組みづくりを求めたい。地場の中堅企業や公共交通機関を再生し、赤字経営の第3セクターを処理するためには外部からの人材や資金の投入が効果的だ。政府は産業再生機構の地方版といえる地域力再生機構の設立を予定しているが、民主党が反対している。

 地方を元気にする方法は幾通りもあるのだから、民間と自治体が創意工夫して地域資源を生かす道を探るしかない。そのためには自治体に権限と財源を与える必要がある。

 政府・与党は早ければ5日召集の通常国会に道州制基本法案を提出する方針だ。道州制は地方分権の最終目標なだけに一歩前進である。同じ公共投資でも、ブロック中心都市の拠点性を高め、道州制を促すような広域交通網の整備は必要だろう。

 ただし、区割りの問題ひとつ考えても、道州制の実現までには相当な時間がかかるだろう。まずは、過剰な規制の撤廃などすぐにできる改革を断行すべきだ。

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