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社説

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温暖化防止―「緑の日本」担える政治を

 地球温暖化の防止に向けた節目の年が明けた。

 温室効果ガスをどう削減していくのか。京都議定書に続く新たな国際的枠組みが年末に決まる。不況の暗雲が世界を覆っているが、それでも脱温暖化への歩みを後退させてはならない。

 一筋の光はある。太陽光や風力のように二酸化炭素(CO2)を出さない再生可能エネルギーの利用を広げ、それを新たな成長の糧にする「グリーン経済」への転換である。

 エコ住宅を普及させたり、太陽光発電の施設を増やしたりすれば、CO2を減らしつつ新たな雇用をつくることができる。温暖化防止と景気回復を同時にねらう発想だ。

 世界は動いている。ドイツやスペインなど欧州の国々は、社会や産業のグリーン化を進めてきた。米国のオバマ次期大統領も、グリーン・ニューディール政策で内需の拡大をめざす。

 さて日本はどうか。残念だが、政府の及び腰の対応に不安が膨らむ。

 たとえば、今月下旬にも誕生する国際再生可能エネルギー機関(IRENA)への参加問題がある。

 昨年10月、太陽光や風力の利用を広げようと、英仏独伊やインド、韓国、オーストラリアなど51カ国が設立協定を結んだ。だが、日本は米ロなどとともに参加を表明していない。

 日本が使う1次エネルギーのうち、再生可能エネルギーは2%だけだ。これを増やすには、太陽光発電などの電気を電力会社が高く買い取るといった思い切った施策が必要だが、経産省や電力業界は消極的だ。IRENA不参加の背景にそんなことがある。

 ほかにも、CO2の国内排出量取引は、産業界の一部に配慮して強制力のない中途半端なものになった。温室効果ガス削減の2020年ごろの中期目標では、欧州が意欲的な数字を出しているのに日本はまだだ。

 従来型の産業に固執して足踏みしていると、グリーン経済に出遅れてしまう。政治のリーダーシップを発揮し、早急に社会や産業のグリーン化へかじを切らねばならない。

 対応が遅れると、国際政治の場でも発言力を失ってしまう。「日本は脱温暖化に後ろ向きだ」というイメージが定着すれば、ポスト京都議定書をめぐる国際交渉で、誰も日本の主張に耳を傾けてはくれまい。不本意な条件をのまされるようでは困る。

 そもそも日本は、けっして脱温暖化に後ろ向きではない。エコカーや太陽電池、省エネなど世界トップ級の環境技術がある。国や自治体の様々な技術援助は海外で高く評価されている。国民の環境意識も高い。

 世界へ向けて「緑の日本」というメッセージをいかに発信するのか。そうした戦略が問われている。

世界天文年―さらにガリレオの先へ

 イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイが、レンズを使った望遠鏡の発明を知り、手作りして夜空に向けたのはちょうど400年前のことだ。

 そこには、驚くべき世界があった。なめらかな球と信じられていた月の表面はでこぼこだった。木星には四つの衛星もあった。こうした発見が、天界は完全無欠であり、地球を中心に回っている、そんな世界観を覆すことにつながっていく。

 国連や国際天文学連合はそれを記念して今年を「世界天文年」と決めた。宇宙に親しむ機会にと、さまざまな行事が世界中で計画されている。

 新しい年に思いをめぐらすときだ。年の初めの澄んだ夜空を見上げ、果てしない宇宙、そしてその中の人間という存在に思いをはせてみたい。

 宇宙とはどんなところか。口径4センチ、ガリレオの小さな望遠鏡から始まった探求はまだまだ終章が見えない。

 宇宙はビッグバンという大爆発で始まり、いまでも膨張している。20世紀にそんな宇宙像が確立した。一段落したと思ったら、大望遠鏡が登場した1990年代以降、また大きななぞが出てきた。

 宇宙の構造や銀河などの運動をくわしく調べたところ、宇宙には見えない成分が大量にあるらしい。光などを手がかりにして見えるのは5%弱、残りの約95%が正体不明なのだ。これでは宇宙がわかったとはいえないと、天文学者たちは頭を抱えている。

 全体の2割強の「暗黒物質」には、未知の素粒子やブラックホールなどの候補がある。

 7割強を占め、正体の見当さえついていないのが「暗黒エネルギー」だ。リンゴを落とす万有引力とは逆に、何でもはじき飛ばしてしまう、「万有斥力」とでも呼ぶべきものだ。

 そのおかげで宇宙の膨張は加速されている。つまり、宇宙の運命のかぎを握っているのだ。いま宇宙の年齢は約137億歳。1千億年後の宇宙は500倍にふくれあがる。

 アインシュタインはかつてその存在を想定し、後に「生涯最大の過ち」として撤回した。それがまた復活した。人間の洞察力を思わずにいられない。

 自然がなぞを突きつけ、人の頭脳がそれを説明しようと理論を考える。

 地動説の登場で天体の運動がすっきり説明できたように、今はまた、全く新しい理論の登場前夜かもしれない。

 そのヒントもまた、自然がくれるに違いない。ガリレオの望遠鏡の遠い子孫の一つが、日本がハワイにつくった「すばる」である。誕生してまもない銀河など、最も遠くまで見える望遠鏡としての活躍が期待されている。

 知りたい心を育み、宇宙の根源を訪ねる営みを支えていく。21世紀の日本にとって、これも大切な課題だ。

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