衆院選挙が行われる今年は政権をかけた政治決戦の年である。一方で、昨秋以来、急速に悪化する経済状況は、従業員の雇用を中心に一段と厳しさを増している。かつてない難局の中で、麻生太郎首相が難しいかじ取りを迫られるのは必至だ。
それにしても、昨秋の臨時国会での政治の「機能不全」は、いったいどうしたことだろう。党利党略に終始し、政治が手をこまぬいている間に、全国的に非正規労働者の解雇が相次いだ。不安を抱えて年を越した人は多い。国民生活を守ることが政治の使命であるはずだ。
「国民の景気や生活に対する不安を取り除くため、政府は全力を尽くす」。麻生首相は年頭所感で、景気・生活対策最優先で政権運営にあたる考えを強調した。今の社会経済状況をみれば、当然の認識だろう。
支持率急落
五日には通常国会が始まり、景気対策を盛り込んだ二〇〇八年度第二次補正予算案が提案される。松も取れぬうちから国会を召集するのは異例である。それだけ首相の危機感も強いことがうかがえる。
ただ、これまでも麻生首相は「景気優先」を掲げてきたが、空手形ばかりだったと言っても過言ではないだろう。二十七兆円規模の追加経済対策を提示したのは昨年十月三十日だ。大きく打ち出した割には、具体化のための補正予算案は臨時国会に提出されなかった。
政府・与党には野党の追及をかわそうという思惑があったようだが、これで政権への風向きが変わってきたのではないだろうか。さらに、定額給付金では所得制限の有無などをめぐって首相の発言が迷走した。漢字の読み違いや失言も相次ぎ、麻生内閣支持率は発足直後の48・6%から十二月調査では25・5%にわずか二カ月で急落した。
解散先送りで対決姿勢に転じた民主党が、参院で攻勢を強める中、守勢に立たされた首相の指導力不足は否めない。与党は衆院の三分の二以上の多数決で辛うじて法案を再可決しているが、迅速な政策の実現が困難な状況だ。
視界不良
麻生首相は臨時国会での一次補正に続き、通常国会での二次補正、さらに〇九年度予算の「三段ロケット」での景気てこ入れに意気込んでいる。しかし、対決姿勢を強める野党は、与党内にも批判がある定額給付金を中心に政府を追及する構えで、国会は冒頭から波乱含みである。
与党内の麻生離れ、反麻生の動きも目が離せない。もともと「選挙の顔」として擁立された麻生首相だ。人気が落ちれば、党内の求心力もなくなる。通常国会で反転攻勢を図るどころか、むしろ党内に火種を抱えたままでは、ちゃんとした政権運営ができるとは思えない。まさに「視界不良」に陥っている。
これでは予算はおろか、中長期的な政策の展望を描くことなどとても無理だろう。急速に進む少子高齢化で、医療、福祉といった社会保障制度の再構築や国、地方の財政立て直しは急務だ。
また、世界的な不況の中で、日本の経済や産業の展望を切り開くことも待ったなしである。今月、新たに誕生する米国のオバマ政権との関係をどうつくっていくのか。内外ともに政策課題は山積だ。
野党の責任
一方の野党の責任も見逃せない。臨時国会では参院の数に頼んだ強行採決が行われたが、これではかつての与党と変わらない。景気対策など今、緊急に必要な施策については法案修正などで、与党と合意を目指すべきだろう。最初から反対ありきの姿勢では議論は成り立たない。党派を超えて与野党が話し合い、折り合いのつくところを探りながら、前に進めることが先決である。
衆院選は九月までに必ず行われ、各党が選挙に向けて走るのはやむを得ない面もある。しかし、国民生活を棚上げにしての政局優先の国会運営では政治不信を増幅させるだけだろう。
ねじれ国会は今、経済危機に見舞われたことで、新たな試練にさらされている。各党は難局を乗り切る手だてをマニフェスト(政権公約)としてしっかり国民に提示し、選挙に臨むべきだ。与野党の力量が今こそ問われる。