一昔前なら、日本の最高学府である東大を卒業して高級官僚になるのが、1つのステイタスだったが、いまや東大生の希望進路は、外資系の金融機関やコンサルティングファームになってしまった。
「官僚になって日本のためになろうなんて思いません。グローバル化の時代にそんなことをいっていたら、バカを見るだけ。ボクは外資系の金融機関かコンサルティング会社に就職します。そこで、将来のコネクション作りをするのです」(東大法学部3年・I君)
いまや「高級官僚」という単語すら、東大生の間では死語になりつつある。低賃金で早朝から夜遅くまで働かされて、何か問題を起こすと真っ先に矢面に立たされる。最高学府を出てまで、こんな報われない職業に就くヤツはよほどのバカだと思われている。
高給取りの象徴「国連職員」をめざす若者
もはや官僚は、東大生でも外資系のファンドやコンサルティングファームにいけない出来の悪い学生が、仕方なく就職する職業に成り下がってしまったのだ。したがって、明らかに官僚の能力と質が低下していることは否めない。
I君は続けていった。
「グローバル化が進んで格差が広がったというけれど、たかだか日本国内の話でしょう。中国やインドは豊かになって、国と国の差はむしろ縮まった。日本で貧乏といっても大した話ではない。グローバル化は十分機能して、世界的にも大きな利益をもたらしているんですよ」
ちなみに彼の父親は高級官僚で裕福な家庭に育ち、赴任先のインドでは執事や家政婦つきの生活も体験している。おそらくI君も同等の家柄の彼女と結婚して、「豊かさ」を相続していくのだろう。
最後に、I君に将来像を聞いてみた。
「コンサルティングファームである程度の人脈ができたら、民間企業にCEOとして高給で引き抜かれて、その後NGOやNPOなどを経て、最後は国連の職員を目指します」
いかに自分を納得させて生きるか
国連職員といえば、まさに高給取りの象徴で、世界中どこに行くにもファーストクラス。超高級ホテルに滞在して、1年のうち半分が休みというセレブ中のセレブなのだ。
紛争地帯の視察に行っても、朝からホテルのラウンジでワインを飲んでいるという批判もよく聞こえてくる。そんな彼の頭の中には、「派遣」や「日雇い」、「格差」などの文字はひとかけらも存在しない。あるのは、超豪華マンションに住み、高級外車を乗り回す夢のような将来設計だけだ。
もはや「上」から「下」まで、どんなにもがいても抵抗しても、格差は未来永劫、固定されたのだ。あとは悲しいかな、いかに自分を納得させて生きるかだけだろう。
参考文献: 『14歳からの社会学』(宮台真司)、『セオリー vol.9』(講談社)、『週刊ダイヤモンド』(08年8月30日号)など