派遣社員からホームレスへの一本道
自動車産業を初めとする製造業で、期間従業員や派遣社員の首切りが横行している。トヨタの系列6社で1万460人、日産は1500人、マツダが1300人、スズキが600人、日野自動車が500人といった状況だ。中でもいすゞ自動車は、1400人いる期間労働者と派遣社員を全員、2008年末までに契約を打ち切ると発表している。
期間労働者や派遣社員は、会社の寮に住み込みで働いているので、契約打ち切りはすなわち住宅を追い出されるということを意味する。さすがに世間からの反発の声が強かったので、住宅については、年度末の3月までの滞在を認めたようだが、以前として状態は厳しいままだ。
彼らは不況で仕事のない地方から、人材派遣会社の求人募集に申し込んで、大手企業の工場に住み込みで派遣されてくる。
最初の求人情報では、「月収32万円」「27万円」とか高い給与に惹かれて応募するが、実際の月収は、事前には無料だったはずの寮費や光熱費、家電のレンタル代などを引かれて、10万円あまりになってしまう。これでは貯金などをする余裕もなく、いったん契約を打ち切られると、田舎に帰る旅費もないままにほっぽり出されて、もはやホームレスへの一本道しかいない状況に追いやられるのだ。
以前は、失業者からホームレスへの間には、いろいろなセーフティネットがあったが、現在ではまったく機能していないといってよい。健康保険などの各種の減免措置や生活保護も受けることが、非常に困難になっている。
ましてや、新規の職を探そうにも住民票がなければ、正社員にはなれない。行き着くところ、その日暮らしの派遣社員として搾取されるしかない立場になってしまうのだ。また住民票を取るために、新しく部屋を借りようとしても、保証人がいなければそれもかなわない。
ということは、いったん首切りで住居を追い出されると、もはや這い上がる可能性はまったくないといってよいだろう。
また、いったん就職が決まった新卒の学生に対しても、内定取り消しなどでかなり厳しいしわ寄せが来ている。不動産や金融関係では、9月のリーマンショックによる業績の急降下によって、新卒の内定を取り消している企業が増えている。内定取り消しによる不評よりも、目先の経費を控えたいというところだろうか。運よく入社を認められたとしても、正社員ではなくパート社員として契約されたり、試用期間が1年間にも及んだり、至るところに落とし穴があるようだ。
急速にスラム化する新宿の繁華街
このように、小泉内閣以来の規制緩和路線によって、派遣労働の原則自由化が認められて以来、格差はひらくばかりだ。新宿のある一角では、低料金で泊まれるネットカフェや安いファーストフード、コインロッカーが林立して、ワーキングプアたちの棲息地となっている。
いったんこのように、「下」の人が集まり始めると、誰にも止めることはできない。「下」を商売にした店舗も集まり、ここ数年で、目に見えて繁華街はスラム化してきている。おそらくあと1~2年で、都市も「上」「下」の棲み分けが顕著になり、地価にも大きな格差ができて、固定されていくことになるだろう。
これまで東京では山谷、大阪では釜ヶ崎、横浜では寿町など、数百メートル四方の一定の地域が、日雇い労働者の街として有名だったが、近い将来新宿区全体がスラム化することにもなりかねない。それほど、事態は深刻になっているということだ。
では、首を切る側、つまり企業の経営は「リストラをしなければやっていけない」ほど、本当に行き詰まっているのだろうか?(次ページへ続く)