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 具体的に採用対象となりえるのは、コスト的に最安値のピチピチの新卒(それも勤続年数に穴があく女性は敬遠されがちだ)か、もっとも即戦力性が高く、パフォーマンスがコストを大幅に上回る30代前半の現役正社員となる。こうして、卒業時には内定が取れずにフリーターとなった人間や、失職した中高年は市場からはじき出されることになる。

 そう考えると、大学から就職に至る日本の採用モデルは、人材のパイプラインのようなものだろう。経済全体が成長し、生産年齢人口も増加しているあいだは需要と供給がマッチしていたものの、バブル崩壊後は需要不足が起こり、余った若者はパイプから漏れ出して氷河期世代となった。

 その後の好況と少子化で新卒求人倍率2倍を超える売り手市場が出現すると、今度は一転して供給不足に陥り、採用担当者は「人材の質の低下」に頭を悩ませることとなった。それらの期間を通じて、社会には締め出されたロスジェネと中高年が喘ぎつづけていたわけだ。

 フォローしておくが、90年代以降、けっして経営側は無為無策だったわけではない。「人件費の調整機能欠如」という問題に対しては、現状に沿ったかたちでの解決策を立案している。95年に日本経団連(当時は日経連)の策定した「新時代の日本的経営」がそれで、そこには従来の正社員を整理し、従来型の長期雇用タイプとそれ以外に分類し直す方針が明示されている。要するに、従来の長期育成が適したコア業務は正社員に、そうでない業務は非正規雇用に分けたうえで、後者をコストの調整弁として使用するということだ。現在までの日本型雇用の変質は、基本的にこのラインに忠実に沿ったものだ。

 だが、これは社会にとって、きわめて不穏当な副産物をもたらしつつある。というのも、正社員側の既得権にはいっさいメスを入れぬまま、調整コストをすべて後者に負わせるため、両者の経済的格差は決定的となる。過去数年の好況時、得られた利益はすべて労組側にベアとしてもっていかれ、現在のような不況時には真っ先に首を切られるという具合だ。2007年に2兆円を超す営業利益を上げつつも人件費の拡大を抑制し、現在大量の期間工をリストラしつつあるトヨタは、新型日本的経営の模範例といえるだろう。

 さらにいえば、いつでも置き換え可能なように単純業務中心に割り振られているため、非正規雇用という仕事は何年勤めようがなかなか職歴としては評価されない。ここに、生じた格差を階層として固定化する決定的要因がある。まさに、一度落ち込んでしまうと這い上がれないアリ地獄である。

人材流動化こそ採るべき道

 ここで、われわれは2つの道のどちらかを選択しなければならない。

 1つは、現状のシステムどおり、長期育成の正社員をあくまで温存する道だ。製造業の強みは長期人材育成と、それがもたらす高度の技術蓄積にあった。今後もそれを維持するのなら、この道はそれなりに合理的ではある。

 だがそれは結果的に、現状の格差構造を黙認するということだ。セーフティネットの再整備によってある程度の是正は可能かもしれないが、格差構造自体は残る。いわば「封建制度における年貢をちょっと減らす」程度の改革だ。

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