カネ余りで膨らんだ金融バブルの崩壊で、2009年の主要国経済は軒並みマイナス成長が見込まれる。まずは各国政府や中央銀行が傷んだ金融機能の蘇生(そせい)に短期集中で全力を挙げるべきだ。並行して将来の危機再発を防ぐ規制や監視の強化も欠かせない。当局が過度の介入をせず、金融の活力を生かせる有効な規制の再構築が求められる。
資金の血流を絶やすな
信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)の証券化商品などで高収益を上げた米国型金融は昨年9月のリーマン・ブラザーズ破綻で挫折した。投資銀行のゴールドマン・サックスなどが銀行持ち株会社に転じ、保険、銀行大手のAIGとシティグループは事実上の政府管理に陥った。危機は欧州や新興国ものみ込み、金融市場の相互不信から世界的なカネ詰まりが起きた。
米欧諸国は資本不足の懸念を抱えた金融機関の国有化や資本注入に公的資金を投じ、信用維持に懸命だ。だが金融の損失拡大は止まらず、米が用意した7000億ドル(約63兆円)の金融安定化基金などの備えが足りなくなることもあり得る。
まずは当局主導で、資金の流れが滞る信用収縮を止めることだ。カギを握るのはスピードと大胆さである。公的資金の追加をいとわずに金融機能を回復させるべきだ。小出しではコストはかえって甚大になる。
気掛かりなのは、公的資金で資本を増強した米欧勢と裏腹に、サブプライム問題などで傷が浅いはずの日本勢がすくんでいることだ。
海外展開する金融機関はリスク資産に対し最低8%の自己資本を積む必要がある。株安や不況が続けば保有株式の減損処理や不良債権処理の費用増で自己資本が目減りしかねず、日本の金融機関は分母に当たる貸し出しの圧縮に動いている。自力調達が難しい企業は借り入れ依存を強めているだけに、問題は深刻だ。
予防的な公的資金注入を可能にする改正金融機能強化法が昨年暮れに成立した。金融機関は公的資金注入による当局の監視強化を敬遠しがちだが、市場に不意の混乱が広がる事態に備えるのが先決だ。地域金融機関だけでなく大手も申請をためらうべきでない。日銀にも企業金融の円滑化へ果断な対応を望みたい。
異例の政策には副作用もある。制度に便乗するモラルハザード(倫理観の喪失)を防ぐためにも、公的関与は短期間にとどめるべきだ。政策の「出口」を考える必要がある。
世界の金融当局にはもう一つの重い課題がある。金融バブルの過熱を再び起こさせないよう、規制や監督の恒久的な見直しを進めることだ。4月に英国で開く20カ国・地域(G20)の第2回金融サミットが、その節目となる。
金融機関は規制の網をかいくぐり自己資本の何十倍もの元手を得て投資を膨らませ、収益拡大に走った。その猛烈な巻き戻しが今の景気悪化を主導している。金融技術の発達と市場のグローバル化に金融当局の規制と監視がついていけなかった。
昨年11月の金融サミットは金融市場と規制の枠組みを強化し、危機再来を防ぐ共通原則を確認した。健全な規制を広げ、複雑な金融商品の開示を強化する内容だ。具体案はG20新旧議長国のブラジル、英、韓国の財務相が3月末までに提案する。
再発防止へ国際協調を
重要なのは「賢い規制と監視」を意識することだ。金融の役割は、企業や個人に適切にマネーを仲介し、情報を生かして助言をすることだ。当局の規制が厳しすぎて金融機関が創意を発揮できないようでは、経済の中で金融を有効に生かせない。
金融機関の自己資本比率に関する国際決済銀行(BIS)の規制見直しも課題となる。現在の「バーゼル2」基準は好況期に融資拡大の余裕ができる一方、不況期には融資を絞る作用が指摘される。景気循環の振れを大きくする体系を見直し、好況時にもっと多めの自己資本を積ませるなどの改善策も検討すべきだ。
金融機関は株式会社である以上、株主が有限責任を負う資本を大きく上回る規模で投資や融資ができる。BIS規制は金融機関の暴走を防ぐ手だてとして重要な役割を果たす。現実に沿った運用改善が望まれる。
規制の国際協調も重要だ。グローバル化した金融市場では、規制の緩いところにマネーが集中し、ひずみを生む。広範囲な規制を主張するフランスなど欧州諸国、自由度を維持したい米英、そして発展途上の金融インフラを抱える中国やインドの利害対立は深い。G20の調整は難しい作業だが、規制や監視の国際連携は不可欠だ。日本もルール作りに主体的に加わり、世界の金融再生に乗り遅れないようにしてほしい。