一瞬にして会場が凍りついた。静まりかえった観客の視線を集めた坂田は、キャンバスに大の字…。視界には何も入らない。あと数時間で新年を迎えるリングで、王者がベルトを手放した。
「パンチは見えていたけど、倒れたパンチは全く記憶にない…」
2回終盤、坂田の右アッパーが挑戦者のあごをかすめた。これを待っていたかのように、デンカオセーンの右フックがテンプルにヒット。坂田のひざが笑い、スローモーションのように崩れ落ちた。国内ボクシング史上初の大みそか世界戦は、わずか355秒、悪夢で幕を下ろした。
「落ち着いて立ったつもりだったのに、止められてビックリした」。10年の選手生活、プロ40戦目で初めて味わうテンカウントを、生まれ故郷のリングで味わった。
07年11月以来の再戦。このときも、1回に右ストレートを浴びてダウンを喫したが、ドロー防衛で切り抜けた。だが、相手のパンチに耐えながら逆襲してベルトを守ってきたスタイルの“勤属疲労”は深刻だ。
坂田が陥落したことで、世界フライ級戦線も大きく揺れる。坂田陣営の協栄ジム・金平桂一郎会長(43)は来年、同ジムが設立50周年を迎えることもあって、WBC世界フライ級王者・内藤大助(34)=宮田=との統一戦プランを表明。内藤が所属する宮田ジム・宮田博行会長(42)も、前向きの姿勢をみせていた。
両陣営とも興毅との対戦を先延ばしする意向を示していたが、これですべてが“白紙”に…。この日、テレビ観戦した興毅はすぐさま反応。デンカオセーンへの挑戦を表明した。「ようやくWBAに挑戦できます。満を持して登場です。2階級制覇をやらせてもらいます」とコメントを出した。
弱肉強食。坂田は「先のことはゆっくり考えたい」と進退を留保したが、その目に力はない。年頭から、興毅の存在がクローズアップされる。