■番組概要
# NHKスペシャル「激論2009 世界はどこへ そして日本は」
# ▽マネー資本主義の崩壊、多極化する世界に日本はどう向き合えばいいのか。世界の知性の提言、日本の論客による討論で、世界のパラダイムシフトの行方を読み解く巻頭言。
# 外交評論家…岡本行夫,経済評論家…勝間和代,慶応義塾大学教授…金子勝,ジャーナリスト…斎藤貴男,慶応義塾大学教授…竹中平蔵,国際基督教大学教授…八代尚宏,北海道大学教授…山口二郎,【キャスター】リサ・ステッグマイヤー,三宅民夫
# 出演 【出演】外交評論家…岡本行夫,経済評論家…勝間和代,慶応義塾大学教授…金子勝,ジャーナリスト…斎藤貴男,慶応義塾大学教授…竹中平蔵,国際基督教大学教授…八代尚宏,北海道大学教授…山口二郎ほか
三宅アナ・・・2009年はどのような年になると思われますか?
竹中・・・「危険なわかれ道」になると思います。
岡本・・・「ポールポジション(競争のスタート位置)取りの時」です。
八代・・・「危機=改革」の年だと思います。
こんな状況では改革なんかできないという声もあると思いますが、
追い詰められないとなかなか改革はできないと思います。
漠然とした議論ではなく具体的な行動が必要だと思います。
斉藤・・・「もう誤魔化せない年」です。
勝間・・・「"働きすぎをやめよう"年」です。
日本は労働時間が多すぎます。
希少な資源である労働力をどう使っていくかを考えるべき年です。
■経済について
【導入VTR】
政府では市場原理主義の方針に従って、規制緩和や減税が行われてきました。
一方で、その流れの中で暴走の爪あとを残したケースも生じています。
サンフランシスコでは年収1000万円以上の高所得者層向けに3000軒以上の高級住宅が建設されました。
しかし、最近では借金を返せずに夜逃げしてしまう例があとをたたないといいます。
なぜそのような事態になったのでしょうか。
バーナデット・ワイヤーさんは3年前にこの住宅を購入しました。725平米、11つの部屋に4人家族で住んでいます。5000万円の住宅ローンを組み、その住宅を担保にさらにセカンドハウスを4000万円のローンで購入し、高級家具を購入しました。
夫「節約なんて考えられなかったですね。高級車も4台買いました。まだ子どもの1人は運転できる年齢にも達していないのにね。」
ブッシュ政権では、住宅ローンの金利分を減税する政策を取りました。また投資用の住宅にも使えるようにしたため、金融機関による貸付競争が激化しました。
ワイヤー家では、奥さんがリストラされ、年収が1700万円に減りました。年1000万円の住宅ローン返済に加え、その他経費を差し引くと生活費は年100万円になってしまいます。住宅は暴落で売るに売れない状況になってしまいましたが、貯金もないといいます。
妻「ほとんど貯蓄はありません。今になって、蓄えがないことが恐ろしいことだということに気づきました。」
アメリカでは、個人消費がマイナス1%という異例の事態に陥っています。
アメリカの金融恐慌は日本にも及んでいます。トヨタは59年ぶりに赤字に陥りました。
日経平均株価は42%の下落率で、アメリカ以上の落ち込みです。
非正規雇用の失業者は85000人(08年10月〜09年3月見込み)と見込まれています。
元派遣社員「のたれ死んでしまいますね。。」
オバマ大統領は市場原理主義を見直し、社会保障や教育面での施策拡充を検討しています。
・道路建設、学校の拡充・・・2兆3000億円を投じて、300万人の雇用を生み出す予定
・環境・エネルギー面での施策強化・・・数年で14兆円を投じる予定
バイオ燃料の工場が建設中。「3億リットルを生産する予定です。」
オバマ次期大統領のブレーン、ロバート・ライシュ氏
「ブッシュ政権では狭い領域の人たちを対象にした政策が行われてきた。オバマ政権では、広い領域において底上げを行いたい。」
【アメリカの経済危機をどう見るか】
竹中: いきなり「市場原理主義」という表現がされているのを見てびっくりした。
市場による活力は重視していくべき。もちろん全てを任せきりにするわけではない。
今起きている問題は、規制緩和によるものではなく、金融業界における新しく出てきた分野に対して、新しいルールを作れなかったということが問題。それを規制緩和の失敗という風に議論を単純化してしまってはいけない。政府の失敗と市場の失敗が重なって起きた問題。
八代: 規制緩和をしたから非正規雇用の問題が起きているというのは今までの経緯を無視した飛躍的な議論。
非正規雇用は長期経済停滞への打開策として生まれてきた性質をもつもの。非正規雇用が問題だからといってそれを元に戻したら問題が解決するのかというとそれは間違い。そういったロジックを無視した議論は間違い。
金子: モデルにしていたアメリカ型のやり方ではどうにもならないということがわかったということ。100年に1度の危機といわれているが、1つの時代が終わったということ。これは今まであった歴史の繰り返しにはとどまらない。
山口: 今までは「平等」という観点を無視している。トップが貪欲にお金を動かしていくことではうまくいかないということを教訓とすること。金融のモデルが破綻したということを直視すること。
三宅アナ: 竹中さん、八代さんの市場の規制緩和を中心とした政策改革を進めるべきという主張と、金子さん、山口さんの市場主義の限界、壁を認識するべきという主張の2つに分かれてきたような気がしますね。
金子: 金融機関への公的資金注入を拒否→株価暴落→あわてて政府の保護という体たらく。
市場を野放図にしてきたツケだ。
竹中: それは事実と反している。金融市場のルールを作らないといけないということは常に考えている。
その具体的な知恵が米欧でもなかったということ。IMF強化など、具体的にどういう規制がよいかを考えないといけない。
山口: 技術的な議論だけではダメ。先ほどのVTRのようにアメリカでは高級住宅を何件も買う人もいれば、一方で保険にも入れず医療を受けられない人もいる。
八代: 何もアメリカをマネする必要はない。カナダ等のように、社会保障を充実させながら、市場活用とうまく両立させている国もある。
金子: 大企業では国家予算を超える内部留保を抱えながら、一方で非正規従業員のクビを切っている。それを反省すべき。
竹中: それにはそれなりの原因がある。非正規雇用は正規雇用の待遇が厚すぎるから出てきた制度。
全部システムが悪いというのは間違い。具体的な改善策を考えなければならない。
斉藤: 構造改革で進めてきた結果であり、その主張はズルいのでは。
これは必然として起こったことではなく、これを理想としてやってきたことではないのか。
VTRのワイヤー家では5000万円の家が出てきたが、アメリカでは収入がゼロでも2000万円に書き換えてローンを借り、それを転売するというようなイカサマが横行していたと聞く。
勝間: アメリカの住宅の話については、住宅が値上がりする前提で、それが続く限りみんなハッピーという考えは間違いだった。しかし、だからといって全て今までやってきたことが間違いだとするのは誤り。間違っていた部分をどう良い方向へ見直すのかが重要。
岡本: 中国、インドなどの新興国も含めて未曾有の好景気だった。過去20年、グローバル化の恩恵を全部捨てるべきではない。犯人探しではなく、これからのことを考えるべき。
山口: 今の企業が簡単に従業員を切れる仕組みの中で、国が何らかの救済をしないといけない。誰かが救わないといけない。今までの規制緩和の流れの中では、従業員を救う責任を、従来の企業から政府に移した、ただそれだけのことだ。これは必然的帰結。
金子: 1999年に派遣が自由化された。製造業などでも380万人が非正規となった。これは政策による結果。大企業が膨大な内部留保を抱える一方で、1人あたりのGDPは順位低下を続け、ワーキングプアは1000万人を超えた。これは1930年代の大恐慌時と似ている。大企業が耐えても、普通の人が苦しい。
竹中: 現在考えるべきは、問題があるとして、これからどうするべきか。原因は何か。
労働については、多様な働き方を認めなければならないということで政策を進めてきた。改革すべきは、オランダ型のように正規・非正規にかかわらず同一労働・同一賃金にすること。これは安倍政権でやろうとしていたが、財界の反対によってできなかった。
三宅アナ: お話を伺っていると、個別に問題点の解決策を考えていくべきだという主張とあちこちに問題が生じているので根本的な解決策を講じていかないといけないという2つに分かれるようですね。
竹中: 具体的にどうしていくべきか、を議論していかないといけない。
金子: 小泉改革の失敗を総括しないといけない。年金・社会保障をきちんとやっていかないといけない。
竹中: この2年間は1つのことも決めるのにも時間がかかり、改革がとまってしまった。
八代: なぜ非正規雇用制度ができたのか。これは経済の長期停滞の中、雇用創出のための打開策として出てきたもの。こういった経済変化の経緯を考慮に入れないといけない。
金子: 不良債権処理にしても、金融機関の損失を確定させないままに公的資金を投入した。デフレも止められないままにこういった失政を繰り返し、労働市場を崩壊させた。
竹中: 改革の停滞は、利害関係者が自らの小さな利害にこだわって起きていた。
【株価下落の原因は?】
八代: アメリカがくしゃみをすると日本が風邪を引く、という構図が今でも続いているということ。
斉藤: 経営者が責任を取らないことが問題。リターンは自分の懐にいれて、リスクは末端の従業員や社会に押し付けている。
竹中: 経営者が責任を取っていないという問題はそのとおり。サブプライム問題の前から日本の株価は下降していた。これは改革が止まっていたため。2005年の郵政民営化の年は日経平均株価は40%上昇した。一方改革が停滞していた2007年は日本だけが株価が下落し、企業や個人の消費も減退した。
もう一つはコンプライアンス不況とでも呼ぶべきもの。安全・安心の美名のもとに官僚がほしいままに歪んだ規制強化を行った。建築規制、外資規制で企業は萎縮した。
山口: 改革という言葉の使い方について。これは小泉さんが単純化して用いていた。彼がやったことは後期高齢者制度と社会保障の解体。我々は政府からきちんとした説明を受け、インフォームドコンセントに基づいて選択していかないといけない。萎縮しているのは、企業よりも国民、地方の公共サービス。最後は国民の健全性を担保しないといけない。
岡本: 一時期は日本は外国人投資家が6割いた。しかし今は日本の成長余力がないと考えられている。金融恐慌対応で、各国の金融政策に対して日本は協調しなかった。円は無為に高くなり、日本からのメッセージはないと見られてしまっている。
勝間: ここ20年、変革が起こる仕組みが止まっていた。このコメンテーター7人の中でも女性は私たった1人。40代もたった1人。日本は高年齢の男性だけと思われてしまっている。国際統計によると女性進出度では日本はかなり低いランキング。これでは男性に過度に多大な責任が負わされているということで、これでは成長が落ちる。イノベーション、システムの更新が必要。
金子: 今までの路線では新しい成長は生まなかった。グッドウィル、村上ファンドなどばかり。成長が進めば規制緩和のおかげ、成長が進まないと規制緩和が足りないという議論はおかしい。
斉藤: 非正規従業員の自己責任という論調が出がちだが、競争というのはスタートラインが同じでないと成り立たない。その機会が保障されていない中で、そもそも競争が成り立っていない。
勝間: 若年層への政府予算について、世界では5%なのに対して日本では3.4%。14歳未満にいたっては世界が8%なのに対して日本は0.7%という数字。これは政府の失政。若年層への政策を拡充すべき。
三宅アナ: 構造改革を徹底させるべきという主張と構造改革は何も生んでいないという主張はどちらが正しいのでしょうか。
竹中: 改革が足りていません。もっとダイナミックに改革すべき。改革が何も生んでいないというのは間違い。携帯電話も規制緩和によって今のように普及発達した。これが旧態依然の電電公社だったらありえなかった。
金子: 規制緩和の中で、社会保障等の新しいルール作りをしっかりやらなかったことが問題。金融立国路線で失敗した。オバマ政権のような環境対策などに比べ、日本は遅れており、戦略がない。
岡本: アメリカもステージとしては同じ状況。自動車、ITがこのような状況になり、これからエネルギーや環境という方向に目を向けているが、これが産業として立つかどうかはまだわからない。今は日本でも大きな方向性を見つけていくべきというところではそのとおり。
山口: 若者、女性の話についてはそのとおり。政策決定者が骨太の方針などにおいて医療や教育への予算を減らしていくことが改革だ、という風に単純化してきたことが問題。それによって生活の疲弊が進んだ。
竹中: 若者への資源配分が重要というのはそのとおり。そのために色んな政策を考えた。バサバサ切っているという認識は事実と異なる。トータルの支出は切っていない。社会保障費など、必然的に増えるものがあり、その中でどこに重点的に配分していくべきかということを繰り返し考えてきた。具体的な話として、どこを削るのか、どこを増税していくのかということを考えることが必要。
勝間: 外需依存という話では、現在の日本では10%の外需産業が残りの90%の内需産業を支えている。内需産業の生産性はきわめて低い。
三宅アナ: 再建の具体策はどのように考えればよいでしょうか。
竹中: 日本を元気にしていくこと。そのためには雇用を「作り出していく」ことが重要。そのためには他国と比較しても高すぎる法人税をどうにかしないといけない。スマートな日本のグローバル企業はこの経済恐慌を大義名分に、日本を出て行く機会を狙っている。この高すぎる法人税をヨーロッパ並みに下げていくことが必要。そのための原資については、現状では所得税をだまして払っていない人がいるが、それをきちんと徴収していく仕組みを作ること。いきなりの導入が難しければ、法人税のスーパー特区を北海道や九州に作ること。その成功しているモデルには韓国やアイルランドがある。
金子: アイスランドでは規制緩和によって逆に困った事態になっている。世界では環境・エネルギー革命が起きている。エネルギーや食料といった分野は基本的には安全保障の問題。安心できる生活を送るために、トータル的に物事を変えていく大転換期にある。
山口: 地方は、ぜいたくをしようということは考えていない。みんな同じ社会保障を受けられること、それを望んでいる。
スタジオの声:
女性(22): 経済危機のルールが限界に来ているので変化が必要だと思います。社会的弱者や子どもを持ちたい人が安心して生きられるルール作りが必要だと思います。
若い女性: 規制緩和が必要なのはわかりますが、トップの人のことだけを考える施策ではなく、1人1人が普通に生きていけるミニマムスタンダードを守っていくことが大事だと思います。
竹中: 最低限のセーフティネットを守っていくのは当然やるべきことだと思います。本当の弱者には救済すべき。そのためには、一定の所得を得ている高齢者には年金は遠慮してもらうなどの策が考えられる。まさに社会保障の制度改革が、既得利権を持っている人たちのしがらみによって今は進んでいない。
勝間: ひとつアイディアがあります。源泉徴収制度をやめてしまうということです。先進国で源泉徴収制度を取っているところは日本以外ほとんどありません。納税申告制度に変更し、現状のお上意識を捨て、国民1人1人が国政への参加意識を高める仕組みづくりが必要です。
斉藤: ただし、監視社会を増長させる納税者番号制度には反対です。
八代: 非正規従業員を支える仕組みが今までは欠けていた。今までは正規従業員だけに手厚い待遇が容易されていた。最近、6ヶ月以上の非正規従業員でも雇用保険が適用されるようになった。このような労働改革を進めていくことが必要。
金子: そのように力点が移ってきていることはいいこと。金持ちから弱者への再分配のための課税強化が必要。
三宅アナ: ここについてのお話は工夫していけそうなところですね。具体的に詰めていくことが大事ですね。
以上、経済対策については終了。以降、外交対策について議論が行われた。