AMDAの活動は国境を越えた災害地への医療救援だけではない。へき地医療への対応や増加する外国人への医療支援などの役割も担っている。二つの現場から報告する。【石戸諭、石川勝義】
神奈川県大和市にある「小林国際クリニック」。AMDA神奈川支部代表で院長の小林米幸さんが「開業医にもできる国際貢献を」と90年に開院した。以来、延べ約4万4000人の外国人患者を診察。1日30人を超える日もある。
取材当日の朝、市内に住むフィリピン出身の豊田ロサリオさん(45)が、長女のクレアちゃん(8)を連れてインフルエンザの予防接種に訪れた。滞日15年超というロサリオさんは日本語も達者だが、「病院での言葉は全く別」と話す。専門的な説明は、クリニックの通訳、石間フロルデリサさん(46)がタガログ語で伝えた。石間さんらによると、日本語に不自由しない外国人でも「病院では症状を伝えられない。医師の言葉が難しくて何を言っているのか分からない」という。クリニックは7カ国語に対応しており、小林さんは「外国人という理由で受けられないサービスはない。日本が排他的なのではなく、準備不足なだけ」と指摘する。例えば、「大病院は案内がなくても分かる。でも小さな診療所は? 検診などの広報も一緒。多言語で翻訳すればいいだけなのに」
小林さんが発起人で理事長を務める東京・新宿のAMDA国際医療情報センターには、薬や医療制度、通訳の依頼まで幅広い相談が寄せられる。タイ料理店を営むタイ人女性(51)は「病院で分かるのは『大丈夫』『また来週』だけだったこともある」と話す。女性が知りたいのは「なぜ大丈夫なのか」という説明だ。同国出身の看護師、心光スリパンさん(58)は「言葉が通じない、お金がないなどの理由で病院から遠ざかり、手遅れになるケースもある」という。
「大事なのは地域全体で受け入れるという姿勢ではないか」(小林さん)。患者が納得する医療を人種・民族を問わず提供できるか。国内での国際医療支援の試金石と言える。
「ひとつ、過疎地にも手を差し伸べてもらえんじゃろか」--。旧哲多町(現新見市)の町長、竹元武士さん(70)の求めで市内唯一の出産施設「国際貢献大学校メディカルクリニック」(同市哲多町)が設立されたのは03年9月。5年間で新しく生まれた命は550人を超えた。
クリニックは「地域づくりと国際貢献」を掲げ、01年に設置された研修施設「公設国際貢献大学校」(同)の関連施設。年間約130人の出産を扱う。市内はむろん、県境の広島、鳥取からも妊産婦が訪れる。同クリニックで出産した新見市上熊谷の主婦、前本こずえさん(27)は「(産科のある)高梁市までは1時間かかっていたが、30分になり、安心できました」と話す。
同クリニックの河相淳一郎院長(59)は「『この地域の医療を支える』という意志が原動力です。診察を通じた人間関係も大切にしたい」と強調する。
校営管理者でAMDA副理事長の的野秀利さん(41)によると、大学校誘致に乗り出した3市2町のうち哲多町の条件が最も厳しかったが「ローカルで不便。AMDAが支援に訪れる地域に一番似ているため選んだ」という。元町長の竹元さんは、「医師集団のAMDA関連の施設ができれば、医師派遣も--という考えがあったのも確か。それでも今、新見に安心して出産できる施設があることは誇り」と胸を張る。
さらに、隣接する介護老人保健施設も含め、働く人の99%は地元住民だ。医療・福祉サービスの提供と同時に、地元の重要な雇用の場でもある。的野さんは「我々はプログラムを持ち込んだだけですが、地域づくりのモデル事業としては成功。地産地消・自己完結型のへき地医療の実践は、海外支援でのモデルケースに結び付く」と話す。地域医療と国際貢献、根底にある考え方は共通している。
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84年 8月 AMDA設立
91年 4月 クルド湾岸戦争被災民救援
AMDA国際医療情報センター活動開始
92年 1月 フィリピン・ピナツボ火山噴火被災民救援
93年 1月 ソマリア難民緊急救援医療
12月 AMDA国際医療情報センター関西開設
94年 4月 AMDA東京オフィス開設
95年 1月 阪神大震災緊急救援
6月 国連NGO認定(カテゴリー2)
9月 第2回国連ブトロス・ガリ賞受賞
96年 4月 レバノン被災民緊急救援
97年 1月 福井県三国町タンカー重油流出事故救援
8月 AMDA国際ボランティア研修センター開所
98年 8月 パプアニューギニア津波緊急救援
11月 ネパール子ども病院開院
ミャンマー子ども病院プロジェクト開始
99年 4月 コソボ難民支援緊急救援
8月 トルコ西部大地震緊急救援
00年 9月 モザンビーク大洪水緊急救援
01年 4月 AMDA国際医療情報センターが内閣府より特定非営利活動法人の認証を受ける
8月 菅波理事長が三木記念賞(国際親善部門)受賞
9月 米国同時多発テロ被害への緊急医療支援
02年 7月 アフガニスタン支援活動
03年 6月 アルジェリア地震被害緊急救援
イラク復興支援
SARS対策支援
12月 イラン南東部大地震緊急救援
04年11月 新潟県中越地震支援
12月 環インド洋(スマトラ島沖)地震・津波緊急救援
05年 9月 ハリケーン「カトリーナ」被害緊急救援
10月 パキスタン北部地震緊急支援
06年 7月 国連経済社会理事会「総合協議資格」取得
07年 3月 能登半島地震支援
8月 ペルー沖地震緊急医療支援
11月 グシ平和賞受賞
ガンジー人道支援賞07受賞
08年 5月 ミャンマー・サイクロン被害緊急支援
中国四川省地震被害緊急医療支援
毎日新聞 2009年1月1日 地方版