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疾病対策など「医療の本分」に注力―08年回顧と09年の展望(1) 日本医師会・唐澤祥人会長

 医師や看護師、介護スタッフなど、2008年には医療・介護現場の人材不足などの問題が顕在化しました。09年には介護報酬が3%引き上げられる一方で、秋から年末にかけては次の診療報酬改定に向けた議論が本格化します。こうした中で、医療・介護の関係者は08年をどう総括し、09年をどう見据えているのか−。日本医師会の唐澤祥人会長ら各団体トップの見解を、きょうから9日まで9回にわたってお届けします。


■目まぐるしく変化する周辺状況
―日本医師会にとって08年はどのような一年だったでしょうか。

 4月の代議員会で再選され、8か月余りがたって痛感するのは、社会・経済情勢など医療を取り巻く状況が1期目とは全く違うということです。政界でも小泉政権以降、安倍、福田、麻生内閣と、数年で目まぐるしく移り変わりました。08年だけを見ても、一言で総括するのは難しい。何年か後に、次の世代が総括すべき事柄でしょう。
 医療に関しても、将来像を見極めづらい状況です。地域では、周産期や小児医療、救急医療が十分に提供できない状況が各地で顕在化しました。本来ならこれら医療の担い手であるべき若手医師の力を活用したくても、さまざまな要因からそれができない。こうした状況が、医師不足問題の背景にあります。
 そうなってしまうのはなぜか。本をたどれば、年金、医療、介護などの社会保障が国の政策の中で、財政面も含め軽視されてきたためでしょう。最近では、国もこのことに気付いて、諸制度を強化する方向を打ち出し始めました。では、どうすれば社会保障制度を再生させることができるのか。現在はそこを模索し始めた段階です。
 世の中には「不安」が横溢(おういつ)している。これは医療に関しても同じです。逆に言うと、少子・高齢時代を安心して迎えるには、どうすればいいのか。この点を考えることが、社会保障再生の一歩になるでしょう。

―おっしゃる通り、経済・金融をはじめ社会の状況は大きく変わり、世間では格差の問題も注目されました。
 医療技術の面では、地域ごとにかなり均てん化が図られていますが、一方で、周産期医療では、都心部の医療提供システムにおいてもうまく機能しない状況が表面化しました。地域医療の崩壊を象徴する、由々しき問題が生じていると感じさせられる出来事です。背景には、財源や人材の確保、医療安全対策など、取り組むべきたくさんの課題が潜んでいます。医療現場では既に、これらの課題に全力で取り組んでいますが、その努力も限界を超えているというのが実情です。医療現場の努力を支えるためにどう工夫するかがポイントでしょう。

■世代、保険者間の格差是正を
−09年度の税制改正をめぐる議論では、社会保障財源を捻出(ねんしゅつ)するため、消費税の増税を実施するかどうかが焦点になりました。
 社会保障費を確保する上では、消費税の増税も確かに一つの手段です。これによって安定的な財源が確保できるなら、医療界としても異を唱えるものではありません。しかしわたしたちは、それを訴えるよりも先に、国民が納得できるだけの医療の方向性を打ち出す必要があります。また、消費税以外にも見直すべきことはたくさんあります。まず、国の施策に無駄はないか。世代間の負担と給付の観点で言えば、公費(税金)による負担と、高齢者や現役世代、事業者の保険料負担をどう整理するか。「派遣切り」やネットカフェ難民の問題がクローズアップされる中で、今は負担がつらくても、将来は制度の恩恵を受けられるという道筋を示すなど、若い世代が安心できる環境をつくる必要もあります。このほか、全国健康保険協会や健康保険組合など、保険者間の格差の問題もあります。裕福なところはより楽に、厳しいところはより厳しくなるようではいけません。国のリーダーシップで格差を是正すべきでしょう。

―「大野病院事件」など、08年には医療安全に関する問題もクローズアップされました。
 わたしも裁判の経過を逐一見守っていました。大切なご家族を亡くされたご遺族には非常にお気の毒だったと思いますが、一方で、担当医もご努力されたと思います。医療は、体にメスを入れるなど、侵襲性の高い行為も伴うことが多いので、予測できないことが起こり得ます。残念ながら、物事に絶対はあり得ません。ただ、われわれ医療者には、完全な医療にできるだけ近づけるための努力が未来永劫(えいごう)、求められます。
 この事件では、警察が介入して担当医が業務上過失致死などの容疑で逮捕・起訴されました。強く感じるのは、あまりにも常識外れの行為が行われた場合は別として、力を尽くしたのに、結果として患者さんを救えなかったこのようなケースと、極めて重大な過失とは分けて考えるべきだということです。ただ、ご遺族が事故原因の究明を願うのは当然でしょうし、医療側としては、事故を二度と起こさないために、何をどう改善すべきなのかを検証する必要があります。専門知識のない警察が介入しても、事故原因の究明は難しいでしょう。医療者が真相を究明し、再発防止策を検討する制度が不可欠です。現在、そのための仕組みとして「死因究明制度」の検討が進んでいます。医療安全に資する死因究明の仕組みが必要だという点で医療界の意見は一致していますが、各論部分がなかなかまとまりません。よりよい制度創設まで、いましばらく時間がかかると思います。

■基本診療料は理念、基本的方向を踏まえた議論を
―09年には、どのような課題を重視されますか。
 わたしたちが医療をおろそかにして社会や経済、政治を論じても仕方がありません。「医師会は何をやっているんだ」としかられることがないよう、まずは医療体制の充実など本分に注力します。また、喫緊の課題として、毒性の強い新型インフルエンザへの対策を早急に講じる必要があります。世の中がどんなに不況であっても、すべての世代が必要な医療を受けられ、安心して暮らせる環境をつくらなければなりません。

―次の診療報酬改定に向けて、初・再診料など基本診療料をめぐる議論が秋から年末にかけて再燃しそうです。
 初・再診料や外来管理加算の見直しは、要するに医療費の再配分の問題だと考えています。医療機関は形のある物を販売するわけではないので、値付けの根拠が分かりづらい面がありますが、例えば外来管理加算に関して言えば、外来医療における患者さんの全身的医学管理に対する、医師の無形の技術評価という側面があります。
 日本の診療報酬体系は、個々の医療提供に係るコストを積み上げて設定されているわけではありません。そのため、基本診療料の評価の検討も難しい面があると思います。単純に、医師の人件費と割り切れるものでもありません。患者さんが安心して治療を受けられるための施設環境の整備、専門職を始めとした人の配置などを含め、基本診療料は、医療機関の基本的な取り組みと、医師や専門職の無形の技術を評価するための診療報酬項目とも言えるのではないでしょうか。これらの問題については、各論に関する意見はなかなかまとまりにくいと思いますが、まずは基本的な方向性や理念を踏まえて検討すべきです。中央社会保険医療協議会(中医協)には、こうした観点からの議論を期待します。

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更新:2009/01/01 10:00   キャリアブレイン

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