芝居は日常- 歌舞伎座の思い出
物心ついた頃からおじいさまやお父様とも長い時間を過ごしてきた歌舞伎座。芝居の話をし、役の仁(にん)を教えてもらい、そして心を震えさせる名演技を身近で観続けたのも劇場です。
「子供心にも、祖父は生まれ持ったものすごいパワーがあると感じていました。例えば『車引(くるまびき)』の梅王を演じている時などは、笠を外す瞬間にまるで太陽がうわーっと上がるような華やかさや力があるんです。あそこまでのものは、真似しようと思ってできるものではないですからね。本当に分けてもらいたいなと思いながらひとつひとつの舞台を勤めさせていただいています」
観る度に圧倒された祖父や父の演じた役。その役を演じることも多くなりました。
「例えば『白浪五人男』の南郷力丸は、僕の父が得意としていた役で菊五郎のおじさんの弁天小僧と何度も共演した舞台を見てきました。祖父も南郷を演じましたが、父はまた全然違うんですよね。年齢もあるのでしょうが、張りつめたような鋭さを感じます。時を経て、自分が祖父や父の演じていた役を同じ舞台で演じるようになって、自分にはまだ足りないものがわかったり、目標が増えていく感じです。歌舞伎の舞台に立つと、祖父や父の血が自分の中に流れていることを強く認識しますし、心の底から勇気が湧いてきます」
荒ぶる魂。まさに江戸歌舞伎の神髄をその身体に、魂に継承し舞台の上で発散し続ける尾上松緑さん。花道から登場した瞬間、劇場中に張りつめた緊張感を放つ姿は、観るものに大きなカタルシスを与えてくれます。力みなぎる松緑さんに劇場で触れ、新しい年をパワーいっぱいで始めてみませんか。