憂楽帳

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憂楽帳:人生の禍福

 新聞記者を20年続けて、一度だけ記者を辞めようかと悩んだ時がある。刺激に富んだ取材が楽しくて仕方のない毎日だったが、「続けられない」と思った。授かった一人娘に知的障害の疑いを病院で告げられた13年前のことである。

 「家族と向き合える時間の多い仕事に変わった方がよいでしょうか」。当時娘の主治医だった女性医師に、妻と相談した。「気持ちは分かります。でも、お父さんが転職しても、障害が軽くなったりはしないでしょう。記者を続けて、お母さんを精神面でも支えてください」。多くの障害児とその家族を見てきた医師の言葉に、私たち夫婦は力を得た。

 あの時、自分だけで転職を決めていたら、その後取材した病気や障害と共に前向きに生きる人たちとの出会いも、このコラムを書くこともなかっただろう。

 世界的な景気悪化で、職や住まいを突然失う人が急増している年の瀬である。人生の禍福が、ことわざ通り、より合わせた1本の縄のように巡ってくるなら、来年は「福」の順番になる。どんなつらさにあっても自分だけで抱え込まないで。今、そう伝えたい。【遠藤哲也】

毎日新聞 2008年12月27日 大阪夕刊

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