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公益法人改革―「民の力」が育つように

 日本野球機構、NHK交響楽団、アムネスティ・インターナショナル日本、駐車場整備推進機構。これらの団体に共通するのは何か。いずれも役所が所管する公益法人という点だ。

 社団・財団法人の公益法人制度が今月、約110年ぶりに改められた。もうひとつ、NPO法人も根拠となる法律の施行から丸10年がたった。民間の公益活動をめぐる二つの制度がともに大きな節目を迎えたが、まだまだ使い勝手のいい制度とは言い難い。

 この春、利用者の少ない駐車場づくりなど、国土交通省所管の法人による道路予算の無駄遣いが問題になった。だが、約2万5千の公益法人の多くは文化、スポーツ、国際交流などの分野でまっとうな活動をしている。

 明治から続いてきた旧制度の根幹は、主務官庁制だ。中央官庁や都道府県が公益性を認めなければ設立できない。その後も役所が監督する。

 こんな関係が省庁の縦割りを越えた活動をやりにくくし、さらに天下りやそれを養う補助金の受け皿となる「官益法人」も生んできた。財団法人のKSDを舞台にした00年の汚職事件を機に、政官界との癒着を改めようとしたのが今回の新制度である。

 新制度では主務官庁制をやめ、登記だけで設立できる原則にした。そのうえで、新設する第三者委員会が公益性を認めれば、寄付金控除など手厚い税優遇を受けられる新しい「公益社団・財団法人」になれる。

 役所の制約を離れ、自由な活動を促すというのが、うたい文句だ。だが、法人側からの評判は悪い。

 公益性の認定条件が厳しく、申請などの事務作業も膨大だ。いい加減なものを認めてはならないのは当然だが、角を矯めて牛を殺すことにならないかという懸念が根強いのだ。

 一方、市民も加わった議員立法で生まれたのがNPO法人の制度だ。この10年で3万6千もの法人ができたが、運営に苦しむところも多く、怪しげな法人もちらほらする。

 こちらも内閣府などの認証で設立された後、さらに国税庁に認められれば寄付金控除などの優遇がある「認定NPO法人」になれる。年ごとに改善されているとはいえ、やはりハードルが高い。これまでに認定法人になったのはたった90ほどだ。

 公益法人にせよ、NPO法人にせよ、税の優遇を受けるには厳しい条件を満たす必要がある。官のそんな言い分は理解できるが、あまり厳しくては制度の意義が薄れるし、公益活動に市民が寄付する文化も育たない。

 二つの制度とも法人側の負担が大きすぎる。ますます重要性が高まっていく民間の公益活動を育てていくには、寄付金控除を受けられる要件の緩和など、制度の見直しは急務だ。

チベット問題―いまこそ対話の好機だ

 チベットで揺れた年だった。3月の騒乱に始まり、五輪の聖火リレーを巡る混乱は世界に広がった。今月には、欧州連合(EU)議長国・フランスのサルコジ大統領が、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と初めて会談し、中国の猛反発をかった。

 中国の外務省報道官は「祖国分裂をはかる政治亡命者と会ったのは、内政への乱暴な干渉で、人民の感情を大きく傷つけた」と言った。「靖国参拝を繰り返した小泉元首相と同じだ」という批判も中国国民から噴出した。

 ダライ・ラマと会談しないよう再三にわたり警告していた中国側は、フランスのリヨンで開かれるはずだったEUとの首脳会談を延期した。

 金融危機が実体経済にも及ぶなか、世界経済の立て直しに役割が期待される中国とEUのサミットが実現しなかったのは、極めて残念だ。

 サルコジ氏が中国の強い反対にもかかわらず会談に踏み切ったのは、人権重視の国内世論に配慮しただけでなく、中国側にダライ・ラマとの対話の重要性を改めてアピールする狙いがあったに違いない。

 3月の騒乱後、国際世論におされて始まったダライ・ラマの特使と中国当局者の対話は行き詰まったままだ。

 「独立ではなく高度の自治」というダライ・ラマの「中道路線」には変わりがない。だが、中国当局は「事実上の独立を目指している」と受け付けない。対話再開は、北京五輪に悪影響を与えないためのポーズだった。そう思わせるほどのかたくなさだ。

 そんな中国の姿勢に、チベット社会では若者を中心に「独立」を求める強硬路線が勢いを増している。先月の亡命チベット人会議でも、中道路線継続は確認したものの、中国側が前向きに対応しなければ、独立を要求する以外に道はないとの声が大きかった。

 チベット人はチベット自治区以外にも暮らし、チベット仏教を信仰するのもチベット人に限らない。このため、ダライ・ラマの求める「自治」の範囲への疑念が、中国当局の頭から消えないのかもしれない。

 しかし、中国はやはり、チベット社会で幅広い支持を得ているダライ・ラマとの対話を進めるべきだ。

 ダライ・ラマの73歳という年齢を考えて、対話を先送りするという思惑も一部にある。だが、それでは両者をつなぐパイプがつまり、強硬派を勢いづかせて再び騒乱を招きかねない。来年はチベット動乱から50年という敏感な時期でもある。

 日本政府はチベット騒乱後、欧米のように大声ではなく、静かにねばり強く中国に対話路線を説得した。「メンツを大切にした日本外交が功を奏した」という声が中国内で出たほどだ。日本流の働きかけを続けるべきだ。

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