信大病院(松本市)は1月、情報通信技術を活用し、子育てなどで現場を離れた女性医師らが自宅で最新の治療法を調べて勤務医に伝え、現場の負担を軽減する新たなモデルの実証実験を行う。医師不足が深刻になる中、出産や子育てで退職を余儀なくされがちな女性医師の支援は大きな課題。現場とつながりを保つことで職場復帰をしやすくし、子育てと両立しやすい働き方を探る狙いだ。
情報技術を駆使し自宅などで勤務する「テレワーク」の普及を進める総務省が、さまざまな分野で取り組む実証実験の一環。医療分野は全国初で、同省情報高度化推進室は「医師の働きやすい環境づくりに貢献できないか、効果や課題を洗い出したい」とする。
実験では、普段は大学でしか扱えない国内外の医療文献情報システムと医師宅のパソコンを接続。それぞれの専門分野を生かし、治療方針を考えるのに欠かせない最新の論文や報告を読み、まとめをパソコンなどで勤務医に伝えることを想定している=イラスト。
育児休業中の医師を含め、同病院小児科の男女の医師十数人が参加を予定。同科によると、1997年度以降に入局した医師計54人のうち女性は31人で6割近くを占める。同科の稲葉雄二医師は「1日数時間でも子育て中の医師の力を借りられれれば、その人のスキル維持になると同時に、常勤の私たちも助かる」と話す。
全国でも女性医師は増加傾向で、年齢が若いほど割合は高い。29歳以下の医師では約36%(2006年末時点)が女性。県と信大が2007年に女性医師を対象に行ったアンケートでは、離職した16人のうち15人が復職の意思があると回答した。
実験ではまた、診断書や患者の治療・経過をまとめた書類の作成など、勤務医の事務的な仕事を在宅でできるかも試す。信大病院でも来年5月に全面導入予定の電子カルテを自宅で見られるようにすることで可能になるという。情報を暗号化し、データを持ち出せない特殊な端末を導入するなどした上で、まず架空のデータを用いて有効性や安全性を確認する計画だ。
信大病院は、情報通信技術を活用した遠隔医療、患者や家族の支援を進めてきた。同病院での実験は本年度のみの予定だが、「終了後も検証を続けたい」と医療情報部の滝沢正臣・特任研究員。「医師が増員されても退職者が多ければ医師不足は解決しない。勤務医の仕事と家庭生活の両立や負担軽減のため、できることから取り組みたい」としている。