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’08回顧 社会 広がる不安どう歯止め '08/12/31

 これまでならあり得ない、「まさか」と思うようなことが次々と起きた一年だった。

 「誰でもよかった」。そんな理由で、何の落ち度もない人たちに次々とやいばが向けられた。

 茨城県土浦市の駅で三月、無職の青年に男女八人が切りつけられた。六月には東京・秋葉原で、若い男に刺されるなどして、通行人十七人が死傷した。七月には東京・八王子で、書店のアルバイト店員が休職中の男に命を奪われた…。社会のどこかに潜む悪意が突然、わが身を襲う。想像するだけでぞっとさせられる。

 今年起きた通り魔事件は十一月末までで十三件。警察庁が統計を取り始めた一九九三年以来、最悪だった。中でも目立ったのが、若者による犯行だ。何が凶行に駆り立てたのか。個々の事情はあろうが、共通するのが今の生活に不安や不満を募らせ、希望をなくし、自暴自棄になっていることだ。

 秋葉原事件の被告は、自動車関連工場で働く派遣社員だった。会社のリストラ計画を知り、自分が解雇されると思ったことが、凶行の一因だったとされる。

 働いても働いても貧困から抜け出せない、派遣などの非正規労働者。金融危機の広がりで、この年の瀬、職や住まいを失う人も多い。内定を取り消された新卒者もいる。やったことはもちろん許せないが、被告の絶望が分かるという人もいるだろう。

 脳内出血の妊婦が救急搬送を八病院に断られた末、亡くなる出来事もあった。地方に比べ医師も多く、体制も充実しているはずの東京でなぜ。どこでなら安心して子どもが産めるのか。深刻化する一方の医師不足に心細さが募る。

 断った病院の中には、二十四時間体制で、急を要する妊婦や新生児を受け入れるためつくられた総合周産期母子医療センターもあった。母子の命を守る「最後のとりで」も、もはや万全ではない。

 スーパーに並ぶ冷凍ギョーザには、これまで聞いたことのない「毒」が入っていた。メタミドホス。毒性が高く日本では使われていない殺虫剤だ。食べた兵庫県などに住む十人が中毒症状を起こした。樹脂の原料であるメラミンが混ぜられた食品も出回っていた。

 いずれも中国産食品で、消費者の間には敬遠する動きが広がった。そのため店頭では、野菜などが品薄になったり、値上がりしたりした。「安い」という理由で大量に輸入されてきた中国産。食の足元がいかに危ういか、気付かされた人も多かっただろう。

 街なかを誰もが安心して歩ける。仕事があり、きちんとした医療が受けられ、安全な物が食べられる―。これまで「当たり前」と思ってきたことが揺らいでいる。社会全体が、利益と効率ばかりを追求し、安心・安全が脇に置かれていないだろうか。

 国や自治体は景気や雇用対策に取り組もうとしている。医学部の定員増など医師不足への対応も打ち出した。ただ、これらは対症療法にすぎない。これまで「当たり前」だったありようを取り戻すには、何が大切か、社会の仕組みを見直すときがきている。




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