重苦しい雰囲気に包まれて二〇〇八年が暮れようとしている。共同通信と山陽新聞社など加盟社が選んだ十大ニュースから今年を振り返った。
国内ニュースの一位は「福田首相も政権投げ出し。後継麻生首相の支持率急降下」だった。福田康夫首相は九月一日に突然退陣を表明した。安倍晋三前首相に続く二代連続の政権投げ出しである。福田政権は、衆参両院で与野党の勢力が逆転する「ねじれ国会」によって行き詰まっていた。嫌気が差したとみられるが、あまりに無責任だと批判が高まったのは当然である。
後継麻生太郎首相は、次期衆院選の「選挙の顔」と期待されたが、米国発の金融危機から今は政局より政策を優先するとして、年内の解散・総選挙を見送った。だが、肝心の景気対策などが迷走し、内閣支持率は20%台にまで低下した。来年一月五日召集の通常国会は波乱含みだ。
押し寄せる不況
年末にかけ、日本経済はがらがらと音をたてて崩れるように悪化した。十大ニュースの二位は「景気後退入り、株価急落、円高騰」である。
政府は十二月の月例経済報告で景気の基調判断を「悪化している」とした。前月の「弱まっている」から下方修正したが、基調判断に「悪化」が使われたのは、ITバブル崩壊後の〇二年二月以来、六年十カ月ぶりだ。
自動車や電機などの主要メーカーは前例のない急速な需要減少に見舞われ、次々と減産を強いられている。国内製造業を代表するトヨタ自動車は、〇九年三月期の連結営業損益(米国会計基準)の予想を千五百億円の赤字とした。前期(〇八年三月期)は過去最高の二兆二千七百三億円の黒字だったが、一気に二兆円以上利益を減らすことになる。落ち込みが激しい。
厳しい経営環境から人員を削減するメーカーも多い。厚生労働省の全国調査では、今年十月から来年三月までの間に失業したか、失業が決まっている非正規労働者は八万五千十二人に達する。失業に伴って住居を失う人も多く、雇用不安は深刻になっている。
相次ぐ無差別殺人
理不尽な事件も続いた。三位は「秋葉原、大阪個室ビデオ店などで『誰でもよかった』的犯罪」だ。六月、元派遣社員の二十代男が東京の秋葉原で七人を殺害、十人に重軽傷を負わせた。十月には大阪で無職四十代男が個室ビデオ店に放火し、客十五人を焼死させた。
岡山でもJR岡山駅で三月、岡山県職員が十八歳少年にホームから線路に突き落とされて亡くなった。少年は「誰でもよかった」と供述した。やりきれない。
警察庁のまとめでは、今年一―十一月に全国の警察が認知した刑法犯のうち、通り魔による殺人、殺人未遂事件は十三件と、前年より五件増えて過去最悪となった。死者数も十一人で最多だ。
十一月には元厚生次官夫婦が自宅で刺殺され、翌日には別の元厚生次官の妻が刺された。逮捕された小泉毅容疑者は「保健所に飼い犬を殺された仕返し」などと理解しがたい供述をしている。事件を繰り返さないために何が必要なのか、重い課題が残った。
日本の底力信じて
四位は「冷凍ギョーザ、事故米転売など食への不安さらに高まる」である。一月に中国製冷凍ギョーザ中毒事件が発覚した。その後もウナギの産地偽装や事故米の食用転売などが明るみに出た。
命と健康にかかわる食の信頼が揺らいだ。社会の劣化が進んでいると認めざるを得ない。消費者も一体となった不正を許さない態勢づくりが重要になろう。
暗いニュースばかり続いたが、五位に「日本人学者にノーベル物理学賞と化学賞」が入った。物理学賞の南部陽一郎、小林誠、益川敏英の三氏と、化学賞の下村脩氏の日本人四人が一挙に受賞した。
快挙であり、日本の底力が再認識できた。しかし、益川さんは「ノーベル賞、ノーベル賞と関心が高まっているが、過去の成果。現在の教育や研究の結果が出るのは二十年、三十年後。われわれの受賞で万々歳だということでは困る」とくぎを刺した。困難な時代だからこそ、未来への投資に心を配る大切さを忘れないようにしたい。