夜逃げの契約書。「夜逃げが必要な状態か」を事前に吟味することから、実際にサインをする人は相談者の半分にも満たないという
また数億円で建てたビルを所有していた40代前半の男性の夜逃げにも携わった。コンピューター関係の会社を経営していたが、今秋、銀行から突然融資の返済を迫られた。運転資金に行き詰まり、ヤミ金から1千万円を借りた。
ところがビルのテナントも思ったように入らず、入った物販店も退去して、収入も激減。ビルは借金のカタに取られ、ふくらんだ利子の返済に行き詰まった。取り立てで3人の娘に危害を加えると脅かされ、夜逃げの道を選んだ。
夜逃げの費用は通常20万円前後。暴力団が絡むなど危険が伴うと手当がついて50万円ほどになる。行き先は、もちろん秘密。同じ県内は避けるが、債権者と接触する道を残せるよう、隣県の場合が少なくない。お金がない依頼者も多く、分割や出世払いも可能だ。かかった費用を払ってもらうために、旅館の住み込みといった仕事も紹介する。
「夜逃げはあくまで一時避難」と社長は言う。弁護士や認定司法書士を入れてもやまず、身に危険が及ぶような激しい取り立てを、いったん行方をくらますことでかわし、改めて法律の専門家を入れた法的整理を勧めるという。
■弁護士「借金が原因なら夜逃げの必要ない」
ヤミ金問題に取り組み、映画「夜逃げ屋本舗」の監修もした宇都宮健児弁護士は、「借金が原因の場合、ほぼ間違いなく夜逃げする必要はない」と断言する。
多重債務で厳しい取り立てに苦しんでいる場合、弁護士や認定司法書士に相談し、貸金業者に対し、受任通知を出してもらうことで取り立てを止められる。そのうえで任意整理や自己破産など法的整理に入ることを勧めている。