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支局長からの手紙:イブの日 /京都

 クリスマスイブの日に元タレントの飯島愛さん(36)の死亡が伝わり、驚きました。記憶があいまいですが、彼女がテレビに出始めて間もない93年ごろに毎日新聞大阪本社内で取材したことがあります。若くて可愛いタレント取材などほとんどしたことが無かったので、あれこれ質問を準備し、わくわくしてその日を迎えました。

 ところが、お会いしてすぐにマネジャーから手渡されたプロフィルを見て、「あれっ?」と思いました。彼女の経歴がテレビデビューからしか書かれていなかったからです。当時の視聴者の誰もが知っていたわけではないでしょうが、テレビタレントになる前から成人向けビデオ作品に出ていたことは知られていたことでした。

 その点を確認するとマネジャーは「以前の事務所時代のことは知りません。彼女はテレビ出演をもってデビューしたのです」と言い切りました。「そんなことを言われてもデビューを偽っては書けない」などと、楽しみにしていた飯島さんの取材はそっちのけでマネジャーとのやりとりが延々と続きました。その間、彼女は困った表情を見せるわけでもなく、私たち2人のやりとりには全く無関心の表情だったことが印象的でした。

 とりあえず型通りの取材を終え、担当デスクに相談すると「うそを書く必要はない」ということで記事は出ませんでした。私が記事を書くまでもなく彼女は人気タレントになりました。

 ご存じのように彼女はその後、ビデオ出演についても赤裸々に告白した著作を発表しました。このとき、「ようやく過去を語れる自由を得たのだろうか」と思う一方、「以前は過去を隠すように言われ、今度はさらけ出すように事務所から言われたのだろうか」という感じもしました。だからこそ人気絶頂時の昨年3月、芸能界を引退したとき、「ああこれで本当の自由を得たのだろうな」と想像しました。そんな自由な時間も早すぎる死によって終止符が打たれました。彼女の意思による再登板がなくなり本当に残念です。

   ◇  ◇

 2008年も残すところわずかになりました。皆さんにとって今年はどんな1年でしたでしょうか。ノーベル賞やオリンピックでの日本人の活躍など明るい話題もあるにはありましたが、世界や日本、そしてこの京都も暗くてつらいニュースの方が多かったように思います。

 ここに掲載の写真は来年、殺風景な支局を飾ってくれる左京区の版画家、勝山正則さん(66)の版画「丑(うし)」です。北野天満宮の「なで牛」がモデルです。かわいいので紹介します。なで牛も今年、災難に遭いましたが、無事に復活しました。それにあやかり、来年は復活の年となってほしいものです。それでは良いお年をお迎えください。【京都支局長・北出昭】

毎日新聞 2008年12月30日 地方版

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