九州初のJリーグクラブ「アビスパ福岡」が迷走している。九州サッカー界をけん引するはずが、今季もJリーグ2部(J2)で成績不振。監督人事はもめ、2年ぶりの赤字決算で財政も危機的だ。どうするアビスパ! 明日への課題と再建案を探った。
波が一気に引くように観客が席を立ち、家路に急ぐ。6日、レベルファイブスタジアム(福岡市博多区)で行われたアビスパの今季最終戦。試合後、都筑興社長のあいさつが始まるとスタンドに残ったサポーターから「辞めろ! 辞めろ!」の大合唱。「クラブに明るい未来はあるのか」などフロントを批判する横断幕が掲げられた。
今季はクラブワーストタイの8位。J2に転落して2年連続で下位に沈んだ。ピッチ上で来季の抱負を淡々と口にする都筑社長に、最後までファンから労(ねぎら)いや賛同の声は聞こえてこなかった。
■約束を守れず
1994年7月。福博の街は、サッカー一色に染まった。市民50万人の署名を集め、福岡青年会議所、福岡市、地元企業が協力。静岡県藤枝市を拠点とする「藤枝ブルックス」を誘致した。当時の故桑原敬一福岡市長は、チームを手放す悲しみから涙を流す藤枝サッカー関係者を前に、福岡市民の思いを伝えた。
「大切な花嫁をいただく気持ちです。市民球団として育てると約束します」
その言葉とは裏腹にJリーグに参入して12年たった今、スポンサーが続々と撤退、チームの力も低下…。迷走を続けるクラブに市民は失望し、怒りの矛先はクラブのトップに向けられた。
■情熱ない社長
「社長が明確なビジョンを示せないから、今のアビスパがある」。語気を強めたのは福岡県春日市の会社員の男性(51)。2003年に大分に転勤。当時、J2降格の危機にあった大分トリニータとサポーターとの意見交換会に参加した。席上、大分の溝畑宏社長は「私はトリニータを愛している。資金も集め、いい選手も育てる」と涙ながらに語ったという。あれから5年。大分はナビスコカップを制し、地方クラブのシンボル的存在に成長した。
「どんな世界でもトップの人に責任があり、決定権もある。アビスパはまるで羅針盤なき船。このままでは沈没する」。悔しさから声が震えた。
出資企業や行政の姿勢にも疑問を投げかける意見もある。歴代の社長は、株主からの出向やそのOB。サポーター「ウルトラオブリ」の山本圭吾代表(35)は「アビスパの社長をやりたいと思って来ている人ばかりじゃない。なぜ、株主はクラブに情熱ある人を出さないのか」と唇をかんだ。
■入場料値上げ
見えない方向性から、クラブ運営にも不可解な動きを招いている。幼稚園から中学生を対象にしたアビスパ主催のサッカースクールの会員は1000人を超えた。試合も子どもたちの姿が多く見られる。だが、クラブは来季のホームゲームの前売り入場料を小中高生を対象に引き上げた。「子どもたちを見捨てるつもりなのか」。福岡市東区の主婦(37)は絶句した。すると、そばにいた小学4年の長男が不安げな表情で尋ねてきた。
「もう試合を見られないの? 弱いままならチームはなくなるの? そんなの嫌だ。僕は強いアビスパでプレーしたい」
今、夢と希望を与えるプロクラブの姿勢が、問われる時期に来ている。
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=2008/12/08付 西日本新聞朝刊=