全国のJリーグのスカウトが選手に熱視線を送っていた。高校や九州のJリーグのクラブユース(18歳以下)計12チームによるリーグ戦「プリンスリーグin九州」。4月から4カ月間、九州各地で開かれたが、アビスパのスタッフが訪れることはなかった。
「金の卵が大勢いるのに、地元クラブのスカウトが来ないなんて…」。日本代表でJ1千葉の巻誠一郎選手を育てた大津高の平岡和徳監督はあぜんとしていた。
■まさかの体制
今年2月。福岡市東区のアビスパ本社でフロント幹部が、専門スカウトの廃止を担当者に告げた。
「君には他の仕事をやってもらう」
「後任スカウトはどうするんですか?」
まともな返事をもらえないまま担当者は3月に別部署に配置転換。スカウトはいなくなり、J1を経験したクラブでは前代未聞の体制となった。
アビスパのホームページには「地域の指導者との連携を深めることが重要だと考えています」と記されている。が、チームの総括責任者、田部和良ゼネラルマネジャー(GM)は「高校生をとるのはギャンブル。即戦力はそうはいない」とクラブ理念に反する方針を掲げ、アマチュア関係者に不信感を抱かせた。
「このままでは、九州の高校が背を向けるぞ」。全国高校選手権で2度優勝した東福岡高の志波芳則総監督は語気を強めた。
■目標は絵空事
財政的に苦しい地方クラブは育成を重視している。広島は中国地方を中心に、中高校生を下部組織に入れて育成。31人中16人がユース出身で、J1復帰に貢献した。J1大分は3人のスタッフが九州の小中高生を注視。今季は北京五輪代表の西川周作選手ら28人中5人のユース出身者がトップチームに名を連ねた。
大分や広島の在り方をオシム前日本代表監督は「お金もかからない本来の姿」と絶賛する。「最近は強豪クラブの攻勢も激しくなった。将来は小学生の取り合いになる」。大分の皇(ファン)甫(ボ)官(カン)育成部長は危機感を高めた。
一方のアビスパ。今季トップチームで活躍したU-19(19歳以下)日本代表の鈴木惇選手は下部組織出身だが勧誘されたわけではない。クラブは彼がいたU-12(12歳以下)のチームを1月に廃止し、小学生を対象にした強化をやめた。
「2018年にはチームの3分の1をユース出身にする」と目標を掲げるアビスパを、サッカー関係者は「スカウトがいない現状では絵空事。偶然いい選手が入ってくるのを口を開けて待つだけだ」とあきれていた。
■補強策見えず
同じプロスポーツで福岡を本拠地とするプロ野球の福岡ソフトバンクホークスは、徹底したスカウト活動で川崎宗則内野手ら18人の九州出身者をそろえ、地域密着に成功。パ・リーグ最多の観客動員数を誇る。
アビスパは今季オフに主将の布部陽功選手ら3人を戦力外にしたが、来季に向けた補強は見えてこない。チームが福岡に移転した当初はアルゼンチンとのパイプを生かして外国人を補強してきたが、今は海外のルートすら持ち得ていない。
Jリーグ関係者は酷評した。「アビスパはプロ組織の体をなしていない」。クラブの屋台骨といわれる育成と強化を見直さないと未来はない。
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=2008/12/11付 西日本新聞朝刊=